新しく結婚した義兄夫婦を、我が家に招待することになった。
正直、私はその日をずっと楽しみにしていた。
ただ一つだけ気がかりだったのが、義姉のことだった。
義兄から「人前で食事をするのが苦手」と聞いていたからだ。初対面でそれは負担になるだろうと思い、私はできる限りの配慮をした。
時間は食事を避けた14時。
出したのはペットボトルの飲み物と、個包装のお菓子だけ。
その場で無理に食べなくてもいいし、持ち帰りもしやすいように。
私たち自身も、あえて軽くつまむ程度にして、
「みんな同じ条件」に見えるように気をつけた。
ここまでやれば、きっと安心してもらえると思っていた。
——でも、その考えは甘かった。
「なんかさ、これ…逆に気分悪いんだけど」
義姉のその一言で、空気が一気に凍った。
「え…?」と私が戸惑っていると、義姉は続けた。
「私だけ特別扱いされてる感じするし。距離置かれてるみたいで嫌なんだけど」
一瞬、何を言われているのか理解できなかった。
いや、むしろ——
ここまで配慮して、それを“拒絶”として受け取られるの?
私は言葉を失ったまま固まっていた。
すると次の瞬間。
——ガンッ!!
テーブルの上に置いていた缶コーヒーが床に叩きつけられた。
さらにお菓子の箱も、バラバラに投げられる。
「こういうの、やめてほしいんだけど!」
完全にキレていた。
さっきまで穏やかだった空間が、一瞬で修羅場に変わった。
床には飲み物やお菓子が散乱し、
さっき用意したばかりの“気遣い”は、ただのゴミみたいに転がっていた。
——正直、頭が真っ白だった。
そのとき、隣にいた夫が静かに口を開いた。
「俺たちは、良かれと思ってやったんだ」
低い声だった。
「それで気分を悪くさせたなら、そこは謝る。でもさ」
一拍おいて、はっきりと言い切った。
「物を投げるのは違うだろ。大人のやることじゃない」
空気がさらに張り詰める。
義姉は何も言わず、睨みつけるだけ。
すると今度は、今まで黙っていた義兄が口を開いた。
「……それは、さすがにやりすぎだ」
静かだけど、明らかに怒っている声だった。
「配慮されて嫌だったなら、そう言えばいいだけだろ?なんで物投げるんだよ」
義姉は何も言い返さない。
ただ、唇を噛みしめていた。
そのまま——
5分くらい、誰も喋らなかった。
時計の音だけがやけに大きく聞こえる。
そして、義姉は何も言わずに立ち上がり、そのまま玄関へ向かった。
「……帰る」
それだけ言って、振り返りもせず出ていった。
ドアが閉まった瞬間、全員が一気にため息をついた。
——終わった、と思った。
でも、終わりじゃなかった。
その日の夜。
義兄から夫に電話が来た。
「本当に申し訳ない。改めて謝りに行きたい」
そこまではまだ分かる。
でも次の一言で、全員が固まった。
「次は、ちゃんと義姉も連れて行くから」
は?
夫は即答だった。
「いや、来なくていい」
迷いゼロ。
「また物投げられたら困るし」
そのまま通話は微妙な空気で終わった。
正直、私も同じ気持ちだった。
謝罪はありがたい。でも——
また同じことが起きる可能性があるなら、関わりたくない。
そしてもう一つ。
今回、義姉からリクエストされていた結婚祝い。
カイボイスンのカトラリーセットと、旅行券。
それなりの金額だ。
私はふと思った。
——これ、渡す必要ある?
楽しみにして準備して、
気を遣って、
それでも“気に入らない”で物を投げられて。
それで普通に「お祝いです」って渡す?
……正直、無理じゃない?
夫にそう聞いたら、
「いらないんじゃない?」
即答だった。
まあ、そうなるよね。
今、来週末に義実家で話し合いをする予定になっている。
義両親、義兄、そして——義姉も来るかもしれないらしい。
正直、また何が起きるか分からない。
でも一つだけ、はっきりしている。
——次は、もう黙らない。