卒業式の日、私は朝から少しだけ機嫌がよかった。
三年間通った女子高も、今日で終わり。
校門の前には花。
体育館の前には保護者の列。
廊下にはワックスの匂い。
みんな妙にきちんとしていて、先生までちょっと優しい。
いつもの学校なのに、今日だけはちゃんと「節目」の顔をしていた。
友達は朝から写真、写真、また写真。
「泣くかも」と言いながら、まだ全然泣いてない子。
袴のリボンを直してる子。
最後まで前髪を気にしてる子。
私はそんな空気をぼんやり眺めながら、まあ無事に終わればそれでいい、と思っていた。
感動はあとでいい。
とりあえず長い式を耐える。
それが先だ。
体育館に入ると、白いパイプ椅子がびっしり並んでいた。
冷たい床。
少しひんやりした空気。
マイクのハウリングを直す先生の声。
いかにも卒業式前、という張りつめた静けさがあった。
私は自分の列を確認して、席の方へ歩いた。
そして、二歩手前で止まった。
……ん?
一瞬、目が合った気がした。
椅子と。
いや、正確には、椅子の座面と。
白いパイプ椅子が二つ並んでいる。
その座面に、茶色っぽい染みがついていた。
片方だけじゃない。
二つ。
きっちり横並びで。
妙に主張していた。
私はその場で固まった。
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