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店の灯りを盗んだ犯人、最後に逃げ場を失う
2026/05/05

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「また無くなってる……」

夜の精米所で、私は思わず天井を見上げた。

そこにあるはずの照明が、ぽっかり外されていた。

営業用の電球。しかもこれで二回目だった。

茨城町で小さなコイン精米所をやっている。派手に儲かる仕事じゃない。

でも近所のお年寄りや農家さんが、毎日のように使ってくれる場所だ。

夜に仕事終わりで来る人も多い。

だから照明が無いと困る。

なのに――誰かがわざわざ店内の電球を外して持っていく。

最初に盗まれた時は、ただ呆然とした。

「え……そこ盗る?」

監視カメラを確認したが、帽子とマスクで顔は見えない。

警察にも相談した。

だが、被害額は数百円。

「巡回は強化しますが…」

そんな感じだった。

もちろん警察を責める気はない。

でも、犯人は完全に味をしめた。

そして二回目。

今度は、夜営業中に突然暗くなった。

精米しに来たおばあちゃんが、

「えっ!?停電!?」

と驚いていた。

いや、停電じゃない。

誰かがまた照明を外したのだ。

私はその瞬間、怒りを通り越して、情けなくなった。

数百円の電球を盗むために、誰かが夜中に忍び込んで、営業を止める。

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しかも、周囲に迷惑をかけてまで。

近所の人たちも怒っていた。

「こんなの防犯カメラ増やせ!」「貼り紙で脅せ!」「次来たら捕まえろ!」

でも。

なぜか私は、そういう気持ちになれなかった。

もちろん腹は立つ。

だけど、そこまでして電球を盗む人間って、もう普通じゃない。

だから私は、あることを思いついた。

翌日。

店の入口に、中古の電球を山ほど並べた。

そして、ダンボールに手書きでこう書いた。

【お願い】店内に使用してる照明設備を持ち去らないでください。夜の営業に支障が出ます。

明かりが必要で困ってる方は、こちらの電球(中古)をご自由にお持ち帰り下さい。

どなたでもOKです。

こちらからなら正々堂々持ち帰れます。

書きながら、自分でも少し笑ってしまった。

怒鳴るより、こっちの方が刺さる気がしたからだ。

するとその日の夕方。

近所の農家のおじさんが、貼り紙を見て吹き出した。

「お前、優しすぎだろ!」

さらに、SNSに投稿した知人経由で、写真がどんどん拡散された。

「店主の器デカすぎ」「これは逆に効く」「泥棒の心に一番刺さるやつ」

コメントが大量についた。

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中には、

「新品送ります」

と言って、本当にLED電球を送ってくれる人までいた。

正直、少し泣きそうになった。

世の中、嫌な人ばかりじゃない。

そう思えた。

そして三日後。

閉店後、見慣れない紙袋が入口に置いてあった。

中には――

盗まれた照明が入っていた。

しかも、コンビニの封筒に、震えた字でこう書いてあった。

『すみませんでした』

私はしばらく、その紙を見つめていた。

誰なのかは分からない。

たぶん、一生分からないままだと思う。

でも。

警察に怒鳴られるより、監視カメラで脅されるより、あの貼り紙の方が苦しかったんだろう。

「正々堂々持って帰れます」

その一文は、泥棒扱いじゃなく、“人間扱い”だったから。

次の日。

常連のおばあちゃんが、精米しながら言った。

「ここの灯り、明るくて安心するのよ」

私は思わず笑った。

たかが電球。されど電球。

でも、灯りってたぶん、人の心にも必要なんだと思う。

暗い場所にいる人ほど、誰かの小さな明かりで救われる。

だから私は、今日も電球を並べている。

今のところ、三回目の盗難は起きていない。

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