家に帰った瞬間、背筋に冷たいものが走った。
玄関のドアに、無造作に貼られたセロテープ。小さな四角が、昼間の光の中で不気味に光っていた。
「え……なにこれ?」思わず声が出る。手が震える。誰もいないはずの家で、どうしてこんなものが。
頭の中でシナリオが走る。空き巣?見張り?いや、そんなことは……でも、これはただのゴミじゃない気がする。
スマホを取り出し、慎重に写真を撮った。後で証拠として残しておくためだ。息が詰まる。冷房の効いた玄関でも汗がにじむ。
その夜、AI防犯アプリに相談した。
「これは空き巣が住人の留守を確認する『マーキング』の可能性があります。非常に危険です。速やかに剥がして、写真とともに警察や管理会社へ通報してください」
文字が画面に並ぶ。頭ではわかっている。だが、心臓の鼓動は早すぎて、手が止まる。
次の日、近所の防犯カメラセンターにも連絡を入れた。
「玄関マーキングは実際に犯罪組織や窃盗犯グループによって利用されるケースが多数あります。証拠写真とともに管轄の警察署に相談してください。将来的な犯罪につながる可能性が高いため、相談は必須です」
冷静な口調だ。だが、私は冷静になれない。
念のためドアのテープを剥がした。指先に残る粘着が、気持ちまでべったり貼りつくようで嫌だった。
そして、電話を握りしめ、警察署に相談した。
「これ……犯罪の印になるんでしょうか?」
川口警察の担当者の声は、予想外に軽かった。
「何が犯罪になると思いますか?犯罪の印?無いです」
その瞬間、頭が真っ白になった。
冷静に考えれば、セロテープ一枚。それだけで犯罪になるわけじゃない。
でも、心臓の奥がまだざわついている。夜の玄関、貼られていた時間。誰かが私の行動を確認していたかもしれない。
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