朝のラッシュ時に、4歳の娘を連れて電車に乗ることになった。
正直、できることなら避けたかった。
大人だけでも息苦しい時間帯だ。
ホームには人があふれ、電車が到着した瞬間、まるで波のように人が押し寄せる。
けれど、その日はどうしても外せない用事があった。
私は娘の小さな手をぎゅっと握りながら、何度も言った。
「ママの手、絶対に離さないでね」
娘は不安そうにうなずいた。
女性専用車両の前に立ったとき、少しだけ安心した。
それでも、電車のドアが開いた瞬間、その安心はすぐに吹き飛んだ。
車内は、すでに人でいっぱいだった。
それでも後ろから人が乗ってくる。
前にも進めない。
戻ることもできない。
気づけば、私と娘はドアのすぐ近くに押し込まれていた。
娘の目線は、大人たちの腰より低い。
周りから見れば、たった一人の小さな子どもが、人の波の下に埋もれているような状態だった。
私は必死に娘を自分の体で囲おうとした。
でも、片手には荷物。
もう片方の手は娘を握っている。
腕を大きく広げるスペースもない。
電車が揺れるたび、周囲の体が一斉に動く。
娘のリュックがドアの方に寄る。
髪が誰かのバッグに触れそうになる。
小さな肩が、人の流れに押される。
私は心臓が縮むような思いだった。
「すみません、子どもがいます」
そう言いたかった。
でも、車内の全員が必死だった。
誰かが悪いわけではない。
みんな仕事へ向かっていて、みんな押されていて、みんな余裕がない。
だからこそ、私は声を出せなかった。
娘の顔を見ると、必死に我慢しているのがわかった。
泣きそうなのに、泣かない。
怖いのに、私の服をぎゅっと握って耐えている。
その顔を見た瞬間、胸が苦しくなった。
「ごめんね、もう少しだけだから」
私は小さくそう言った。
そのときだった。
娘の横にいた女性が、すっと手を上げた。
一瞬、何をするのかと思った。
でもその手は、娘の体には触れなかった。
娘の頭のすぐ近く。
髪のすぐ横。
リュックの少し上。
そこに、まるで見えない壁を作るように手を添えてくれた。
ドアが閉まる瞬間、娘の髪やリュックが巻き込まれないように。
でも、娘には直接触れないように。
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