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『洗濯物取り込んであげるのに』と冗談で言ったら、本当に合鍵を渡された
2026/05/31

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隣に住んでいるお兄さんは消防士だった。

背が高くて、爽やかで、
正直かなりイケメン。

でも私が最初に気になったのは顔じゃない。

洗濯物だった。

本当にいつ見ても干しっぱなしなのだ。

朝見てもある。

夜見てもある。

翌日見てもまだある。

ひどい時は丸二日。

風に揺れるTシャツを見ながら、

「この人ちゃんと帰ってきてるのかな」

と本気で心配になった。

後で知ったけれど、
消防士は夜勤もあるし、
災害や出動で予定通り帰れないことも多いらしい。

それでも見るたびに、

「あぁ、取り込んであげたいなぁ」

と思っていた。

そんなある朝だった。

私がベランダで洗濯物を干していると、
珍しく隣のベランダにお兄さんがいた。

「あ、おはようございます」

先に声をかけてきたのは向こうだった。

少し驚きながら、

「おはようございます」

と返した。

それが最初だった。

それから会えば挨拶をするようになった。

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今日は暑いですね。

お仕事ですか?

お休みなんですか?

本当に何でもない会話。

でも少しずつ距離は縮まっていった。

ある日。

また例の洗濯物が二日間干しっぱなしだった。

久しぶりに顔を合わせた時、
私は笑いながら言った。

「干しっぱなしよくないですよー」

彼も苦笑いした。

「すみません」

そこで私は冗談半分で言った。

「もう私が取り込んであげるのに」

すると彼は笑った。

「じゃあ合鍵いりますね」

二人で笑った。

もちろん冗談。

私はそう思っていた。

その頃には、
彼の勤務時間も何となく分かるようになっていた。

夜中に出て行く日。

朝帰ってくる日。

疲れた顔の日。

それでも必ず挨拶してくれる日。

消防士って本当に大変なんだなと思った。

ある雨の日。

ベランダに出た私は思わず声を上げた。

「うわっ」

隣の洗濯物がまだ干してある。

天気予報は大雨。

私はスマホを握った。

でも連絡先なんて知らない。

結局その日はずっと気になって仕方がなかった。

そんな日が何度も続いた。

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気付けば私は、
洗濯物よりも彼自身を気にしていた。

今日は帰ってるかな。

元気かな。

怪我してないかな。

そんなことばかり考えるようになっていた。

そしてある日の夜。

突然インターホンが鳴った。

ピンポーン。

時計を見ると20時過ぎ。

誰だろうと思いながらドアを開けた。

するとそこには、

隣のお兄さんが立っていた。

制服ではなく私服。

少し照れた顔をしている。

「どうしたんですか?」

そう聞くと、

彼はポケットから何かを取り出した。

鍵だった。

私は意味が分からなかった。

完全に固まってしまった。

すると彼は少し笑いながら言った。

「洗濯物なくても遊びに来てていいから」

頭が真っ白になった。

数秒。

何も言えなかった。

彼も少し緊張していた。

そして小さな声で続けた。

「本当はずっと渡したかったんです」

「洗濯物取り込んであげるって言われた日から」

心臓がうるさいくらい鳴っていた。

まさか。

本当にまさか。

私はただ隣人として見ていたつもりだった。

でも違った。

彼も同じように、
少しずつ私を見てくれていたのだ。

それから数年経った。

今でも時々思い出す。

あの日、
ベランダに干しっぱなしの洗濯物がなかったら。

私が余計なお節介を焼かなかったら。

きっと私たちは今もただの隣人だった。

今ではベランダに揺れている洗濯物は二人分。

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そしてその隣には、
小さな子ども服も増えた。

夫は今でも時々洗濯物を干しっぱなしにする。

そのたびに私は笑う。

「だから取り込んであげるって言ったでしょ」

すると夫は決まってこう返す。

「だから最初から合鍵渡したじゃん」

その言葉を聞くたびに、
私はあの日のベランダを思い出してしまう。

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