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おやつは300円まで。でも、その子が持ってきたおやつはほとんどゼロだった。
2026/05/31

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遠足の日だった。

子どもたちは朝から大はしゃぎだった。

おやつの話。

お弁当の話。

バスの席の話。

普段より少しだけ高い声で笑っている。

そんな中、一人の女の子が気になった。

最初に目に入ったのはジャンパーだった。

季節は冬。

少し大きめのジャンパーを着ていた。

でもどこか違和感があった。

袖口は少し伸びていて、

背中には取れないしわが残っている。

何度も着て、

何度も洗った服のように見えた。

もちろんそれだけなら珍しくない。

でもなぜか気になった。

バスの中で隣の席になった時、

私は何気なく話しかけた。

「今日のジャンパー暖かそうだね」

女の子は嬉しそうに笑った。

「うん!」

その笑顔が可愛くて、

私はさらに話を続けた。

「お母さんがお洗濯してくれたの?」

すると女の子は首を振った。

「自分で洗った」

私は思わず聞き返した。

「え?自分で?」

女の子は当たり前のように頷く。

「うん」

少し驚いた。

小学三年生。

まだ九歳だ。

「お母さん忙しいの?」

そう聞くと、

女の子は何でもない顔で答えた。

「弟の服はお父さんかお母さんが洗う」

私はさらに聞いた。

「じゃあ〇〇ちゃんの服は?」

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「自分で洗う」

本当に自然に言った。

まるで当たり前のことのように。

私は思わず聞いた。

「冬の服って重たくない?」

すると彼女は笑った。

「洗えなかったら違う服着る」

「暖かくなったら洗うから大丈夫」

私は返事ができなかった。

本人は困っていない。

不満もない。

だから余計につらかった。

遠足先に到着し、

お昼の時間になった。

子どもたちは嬉しそうにお弁当を広げる。

その時だった。

私はまた手を止めた。

女の子のお弁当が、

どう見ても子どもの手作りだった。

少しいびつなおにぎり。

焦げた卵焼き。

簡単なおかずだけ。

私は聞いた。

「これ作ったの?」

すると彼女は笑った。

「うん」

「お父さん起きなかったから」

その笑顔を見て、

胸がぎゅっと締め付けられた。

責める様子もない。

悲しそうな顔もない。

ただ事実を話しているだけ。

それが一番つらかった。

そしておやつの時間になった。

みんな嬉しそうに袋を開け始める。

チョコレート。

グミ。

クッキー。

子どもたちの笑い声が響く。

でもその子だけ何も出さない。

私は隣に座った。

「おやつ忘れた?」

すると首を振った。

「買ってない」

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「どうして?」

そう聞くと、

彼女は少し笑った。

「おこづかいもったいないから」

私は黙った。

でも次の言葉で完全に言葉を失った。

「来週は弟の遠足もあるから」

その瞬間、

胸の奥が苦しくなった。

自分のためじゃない。

弟のために我慢している。

まだ九歳なのに。

誰にも言われていないのに。

当たり前のように。

話題を変えたくなった。

少しでも明るい話をしたかった。

「将来の夢は?」

すると女の子の目が少し輝いた。

「画家さん」

「絵を描く人になりたい」

私は笑った。

「いいね」

「どんな絵描くの?」

すると彼女は嬉しそうに言った。

「宇宙飛行士」

「宇宙飛行士の絵描きたい」

私は何気なく聞いた。

「じゃあ宇宙飛行士になりたいんだ?」

その瞬間だった。

女の子は少しだけ視線を落とした。

そして小さな声で言った。

「私は行けないから」

私は聞き返した。

「え?」

すると彼女は空を見ながら言った。

「宇宙って遠いし」

「私じゃ行けないと思う」

その言葉が胸に刺さった。

どうして九歳の子が、

そんな諦め方を知っているんだろう。

どうして夢を見る前に、

自分には無理だと思ってしまうんだろう。

私はしばらく何も言えなかった。

そしておやつの時間が終わる頃。

私はカバンを開いた。

本当はダメだ。

ルール違反だ。

おやつ交換は禁止。

先生がおやつをあげるのも本当は良くない。

でも私は負けた。

自分のおやつを取り出し、

何でもない顔で言った。

「先生お腹いっぱいやから食べて〜」

女の子は驚いた顔をした。

しばらく遠慮していた。

でも最後は小さく頷いた。

そして袋を開けた。

その時見せた笑顔は、

その日見たどんな景色よりも眩しかった。

もし怒られるなら怒られてもいい。

あの日私が守りたかったのは、

ルールじゃない。

たった一人の女の子の、

遠足の思い出だった。

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