電車に乗った瞬間、私はまず車内の混み具合に圧倒された。
通路には人がぎっしり。
ドア付近には立つ場所すらほとんどない。
吊り革につかまる人、スマホを見る人、少しでも体の向きを変えようとする人。
まさに、よくある満員電車だった。
そんな中で、私は奇跡的に座れていた。
仕事帰りで足も疲れていたし、正直かなり助かったと思った。
ところが、数駅進んだあたりで、私は妙なことに気づいた。
車内はこんなに混んでいるのに、私の隣だけ空いている。
そこだけ、まるで見えない結界でも張られているみたいだった。
最初は偶然だと思った。
たまたま誰も座るタイミングがなかっただけ。
次の駅で誰か座るだろう。
そう思っていた。
でも、次の駅でも誰も座らなかった。
ドアが開く。
人が乗ってくる。
車内の密度がさらに上がる。
目の前には、明らかに疲れていそうな人もいた。
荷物を抱えた人もいた。
足元がふらついている人もいた。
なのに、私の隣の空席を見ても、誰も座らない。
一人の男性が、空席の前まで来た。
私は心の中で思った。
「お、ついに来たか」
けれど、その人は一瞬だけ空席を見て、それから私をちらっと見た。
そして何事もなかったように、吊り革につかまった。
いや、見えてたよね?
その席、確実に見えてたよね?
私は思わず、自分の服を確認した。
変な汚れはない。
荷物がはみ出しているわけでもない。
靴が異様に汚れているわけでもない。
匂いか?
いや、朝ちゃんとシャワー浴びた。
制汗剤もつけた。
たぶん大丈夫なはず。
たぶん。
それでも、人は座らない。
また別の人が近づいてきた。
今度こそ座るだろうと思った。
その人は明らかに座りたそうに、空席の前で一度足を止めた。
私は少しだけ体を寄せた。
「どうぞ」
心の中でそう言った。
でもその人は、なぜか少し迷ったあと、スマホを見ながら立ち続ける選択をした。
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