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「夫の前では“移植”という言葉を出さないでください」胎嚢確認の日、私は受付に小さなメモを渡した。自然妊娠だと思って喜ぶ夫の横顔を見た瞬間、胸が締めつけられた理由
2026/06/08

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昨日、胎嚢確認のためにクリニックへ行った。

受付の前に立った瞬間、私はバッグの中で小さく折りたたんだメモを握りしめていた。

手のひらは汗で湿っていた。

たった一枚の紙なのに、これを渡すかどうかで、その日の空気が全部変わってしまう気がした。

夫は隣にいた。

少し緊張しているようで、でもどこか嬉しそうだった。

「ちゃんと見えるかな」

そう言って、私のお腹をそっと見た。

その顔を見た瞬間、胸が痛くなった。

夫には、ずっと「自然に授かった」と思いたい気持ちがあった。

もちろん、完全な嘘をつくつもりはなかった。

病院にはこれまでの治療歴も、移植の記録も残っている。

医師にも看護師さんにも、事実は伝わっている。

でも、夫の前で「移植」「受精卵」という言葉が何度も出ると、彼の中の小さな希望が壊れてしまう気がした。

本当は、私だって複雑だった。

自然妊娠にこだわる必要なんてない。

授かった命に違いはない。

そう頭では分かっている。

でも、夫が何度も言っていた。

「自然に来てくれたら嬉しいな」

その言葉を聞くたび、私は笑ってごまかしていた。

最終的には、移植のタイミングも夫は認めてくれた。

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「君が決めていいよ」と言ってくれた。

だから夫が悪いわけではない。

けれど、今日だけは。

胎嚢が見えるかもしれないこの日だけは。

夫に余計な痛みを与えたくなかった。

私は受付の人に小さく頭を下げ、メモを差し出した。

そこにはこう書いた。

「本人には自然妊娠希望という気持ちがあります。今回の受精卵移植については医療記録上は把握していただいた上で、診察時や説明の際、夫の前ではできるだけ言及を控えていただけますと助かります。ご迷惑をおかけしますが、よろしくお願いいたします」

受付の方は、一瞬だけ目を見開いた。

私は心臓が跳ねた。

断られるかもしれない。

怒られるかもしれない。

「そういうことはできません」と言われるかもしれない。

でも受付の方は、メモを静かに読み終えると、私を見て小さくうなずいた。

「承知しました。診察室にも共有しておきますね」

その声があまりにも優しくて、私はその場で泣きそうになった。

夫は隣で何も気づいていなかった。

「どうしたの?」

と聞かれて、私は首を振った。

「ううん、受付の確認だけ」

待合室に座ると、私の胸はずっとざわざわしていた。

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これでよかったのだろうか。

こんなことをお願いする夫婦なんて、他にいるのだろうか。

医療スタッフに余計な配慮をさせてしまっている。

申し訳なさでいっぱいだった。

でも同時に、守りたかった。

夫の小さな幸せも。

私自身の気持ちも。

そして、やっとここまで来たこの命も。

名前を呼ばれ、診察室に入った。

先生はいつも通り落ち着いた表情で迎えてくれた。

「では、確認していきましょう」

その一言だけで、私は息を止めた。

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