目が覚めた瞬間。違和感で息が止まった。
脚が、紫だった。いや、紫というより“黒に近い紫”。
まるで腐っていく途中みたいな色。
「……これ、何?」
声が出なかった。
リビングに行った瞬間、空気が変わった。
母が固まった。父が目を逸らした。
そして親戚が一言。
「それ、もうダメなやつじゃない?」
笑いながら。
一気に騒ぎになった。
「救急車!」「早く病院!」「感染じゃないの!?」
私は何も分からないまま外へ出された。歩くたびに痛みが走る。
そのたびに視線が刺さる。
病院の待合室。
親戚はまだ笑っていた。
「ほらな、大げさなんだよ」「どうせかまってほしいだけ」
私は歯を食いしばった。
診察室に呼ばれた瞬間。
空気が変わった。
医師が一目見て、眉をひそめた。
そして静かに言った。
「これ……かなり強い打撲ですね」
次の瞬間。
親戚の顔が止まった。
医師は続けた。
「壊死ではありません」「ただの“広がった皮下出血”です」
一瞬、静寂。
え?ただの?
医師はさらに説明した。
「強くぶつけた後、時間差で内出血が広がることがあります」「見た目はかなり派手になります」
淡々とした声。
でもその一言で全部ひっくり返った。
さっきまで笑っていた親戚。
完全に無言。
さっきの余裕はどこにもない。
医師が最後に言った。
「むしろ、ここまでで来て正解です」
その瞬間。
空気が“勝敗”に変わった。
帰り道。
誰も私を笑わなかった。
誰も冗談を言わなかった。
ただ沈黙。
重たい沈黙。
そして家に戻った瞬間。
私は初めて気づいた。
“騒いでいた側”の顔が一番青ざめていることに。
さっきまで「大げさ」と笑っていた親戚が、視線を合わせない。
さっきまで「終わってる」と言っていた人が、何も言えない。
私はただ一言だけ言った。
「……もういい?」
誰も答えなかった。
その夜。
スマホには親戚からのメッセージが来ていた。
「ごめん」
たった二文字。
でも私はすぐには開かなかった。
翌日。
腫れはそのままだけど、痛みは少しずつ引いていく。
そして気づく。
一番痛かったのは脚じゃなかった。
“決めつけられること”だった。
人は見た目だけで判断する。一瞬で結論を出す。
でも真実は、いつも遅れてやってくる。
あの日の病院で思った。
「疑うなら、せめて最後まで見てからにしてほしい」と。
そして今。
あの紫色は少しずつ薄くなっている。
まるで何もなかったように。
でも私は忘れない。
笑っていた顔が、沈黙に変わる瞬間を。