「ここ、本当に私の土地なんだけど——」
その日、新居建設予定地の確認に行った私は、現場を見て一瞬言葉を失った。
整地されているはずの土地に、なぜか一直線に並ぶ苗。
しかも——トマト。
支柱まで立てられていて、どう見ても“家庭菜園”が完成していた。
頭が追いつかないまま立っていると、近くの住民らしき人物が普通に声をかけてきた。
「空いてるからもったいないでしょ?ちょっと使ってるだけだよ」
その言葉を聞いた瞬間、逆に冷静になった。
(これは“誤解”じゃない。“無断使用”だ)
私はその場で、短く告げた。
「ここは私有地です。無断栽培はやめてください。撤去をお願いします」
そして、A4の紙にそのまま貼り出した。
〈無断栽培禁止・速やかに撤去してください〉
一見シンプルな警告。
でも私にとっては、最初の正式な一手だった。
しかし——翌日。
現場を確認しに行った私は、さらに言葉を失うことになる。
トマトはまだ残っていた。
しかも、何事もなかったかのように水やりまでされていた。
「まだ使えるのに、なんで怒るの?」
そんな空気すら感じた。
ここで初めて、“話し合いでは終わらない案件だ”と確信した。
私はスマホを取り出し、淡々と証拠を残していく。
・土地登記情報・所有権確認書類・建築許可申請データ・現地写真(無断栽培状態)
感情ではなく、事実だけを積み上げていった。
そして、そのまま行政窓口へ連絡。
「私有地で無断栽培が行われています。対応をお願いします」
その後は早かった。
関係部署からの確認が入り、現場にも正式な注意が入ることになった。
数日後、再び現地へ向かうと——
そこにあったはずのトマトは、すべて撤去されていた。
支柱も、水やりの跡も、何もない。
ただの更地。
さっきまで“自分の庭”のように扱っていた人たちの痕跡は、きれいに消えていた。
その光景を見たとき、私はようやく理解した。
土地というのは、「空いているから使っていいもの」ではない。
そして、“善意のつもり”でも、境界を越えればそれはただの侵害になる。
静かに立っているだけの土地にも、ちゃんとルールがある。
最後に、あの時の言葉を思い出す。
「空いてるからもったいないでしょ?」
今ならはっきり言える。
もったいないのは土地じゃない。
ルールを無視してしまう、その感覚の方だ。
そして私は心の中でそっと思った。
(次は最初から、もっと早く“正式対応”でいい)