週末の昼下がり。
私は郵便受けを確認しようとして、玄関の前で足を止めた。
そこに、見覚えのない白い紙が貼られていたからだ。
少しシワの寄った紙。
青いペンで、急いで書いたような文字。
最初の一行を読んだ瞬間、胸の奥がザワッとした。
「近所の者です」
その時点で、嫌な予感しかしなかった。
続きには、こう書かれていた。
「さすがに子供の声や走り回る音がうるさすぎです。家は公園じゃありません。他の住人がいます。次回からはケーサツを呼びます。静かにしてください!!」
最後の二重の感嘆符を見た瞬間、私は怒りで手が震えた。
警察?
子どもの声?
走り回る音?
一瞬、頭の中が真っ白になった。
でもすぐに、違和感が込み上げてきた。
その時間、うちの子は外に出ていない。
玄関前で遊んでもいない。
家の中で、床に座っておもちゃを並べていただけだった。
確かに、子どもだから笑うことはある。
話すこともある。
でも、紙に書かれているような「走り回る」「うるさすぎる」なんて状態では絶対になかった。
私は家の中に戻った。
子どもはいつものように、静かにブロックを並べていた。
私の顔を見るなり、不安そうに聞いてきた。
「ママ、どうしたの?」
その一言で、さらに胸が痛んだ。
この子は何もしていない。
なのに、誰かに“迷惑な子”みたいに決めつけられている。
私は紙を見せないようにして、笑顔を作った。
「大丈夫。ちょっと確認することがあるだけ」
でも、内心はまったく大丈夫ではなかった。
怒鳴り込みたい気持ちもあった。
「うちの子じゃありません」とその場で叫びたい気持ちもあった。
でも、感情で動いたら負けだと思った。
相手はすでに、こちらを悪者だと決めつけている。
そこで感情的に返せば、「やっぱり面倒な家だ」と言われるだけ。
だから私は、まず証拠を集めることにした。
玄関に貼られた紙は、そのまま剥がさずに写真を撮った。
貼られていた場所。
紙の内容。
時間。
全部分かるように。
次に、家の中の見守りカメラを確認した。
映像には、子どもがリビングで静かに遊んでいる姿が映っていた。
走っていない。
叫んでいない。
玄関にも行っていない。
時刻もはっきり残っている。
さらに、私がその時間に撮っていたスマホ動画も確認した。
子どもは床に座り、ぬいぐるみに小さな声で話しかけていた。
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