社会人になってからの2年間、私はほとんど遊ばなかった。
友達に誘われても断った。
服も買わなかった。
昼ご飯は毎日コンビニのおにぎり一個。
全部、“車を買うため”だった。
地方では車がないと本当に不便だ。
通勤も、買い物も、何をするにも必要だった。
でも母はずっと否定的だった。
「女の子なんだから軽で十分」
「どうせ結婚したら乗らなくなる」
「そんな無駄遣いするなら家にお金入れなさい」
一方で弟には甘かった。
「男なんだから車くらい必要よね」
「免許取ったら新車でもいいかも」
そのたびに私は黙っていた。
やっと買えたのは、十年落ちの中古車だった。
決して高級車じゃない。
でも私にとっては人生で初めての“自分の財産”だった。
納車の日、私は嬉しくて何度も車を見に行った。
なのにその夜。
母は突然、私の手から鍵を取り上げた。
「はい、あんた乗っていいよ」
そう言って弟に渡した。
「え?」
私は固まった。
弟は笑いながら運転席に座り、
「まあ練習用にはちょうどいいか」
「ていうかダサ。もっとマシなの買えなかったの?」
と言った。
頭が真っ白になった。
「それ、私の車なんだけど」
そう言っても母は平然としていた。
「姉弟なんだから共有でしょ?」
「男が使う方が有効活用できるじゃない」
その日から弟は勝手に車を使い始めた。
深夜まで乗り回し、友達を乗せ、飲み物をこぼし、タバコ臭まで付けた。
そして次の日。
車を見た私は絶句した。
ガソリンはほぼ空。
後部座席にはコンビニゴミ。
泥だらけの靴跡。
助手席には知らない女のカーディガンまで落ちていた。
私はキレた。
「もう勝手に乗らないで!」
すると弟は逆ギレした。
「は?家族だろ?」
「こんなボロ車で細かすぎ」
さらに母まで参戦した。
「うるさいわねぇ」
「その車はもう弟のものなの」
「弟が好きに使って何が悪いの?」
その瞬間。
私は何かが完全に切れた。
次の日。
弟が寝ている間に私はホームセンターへ行き、金属チェーンと南京錠を買った。
そして車のシフトレバーを完全にロックした。
誰にも動かせないように。
もちろん鍵は私だけ。
昼頃、家中に怒鳴り声が響いた。
「はぁ!?何これ!?」
「車動かねぇじゃん!!」
弟は発狂していた。
「今日友達迎え行く約束してんだよ!」
「マジでふざけんな!!」
私はスマホを見ながら、静かに電源を切った。
数時間後。
電源を入れると、着信が50件以上。
弟。
母。
知らない番号。
弟の友達。
でも私は笑っていた。
“ああ、ちゃんと困ってるんだ”
それが少し気持ちよかった。
その後、一週間だけ家を空けた。
帰宅した時、母は勝ち誇った顔をしていた。
「あんたの車、売っといたから」
「困るなら謝れば?」
私は黙って車検証のコピーを出した。
名義人は私。
つまり――勝手に売却なんて成立していなかった。
母の顔色が変わった。
私はその場で業者に電話した。
数時間後。
レッカー車が家の前に来た。
弟は青ざめて叫んだ。
「ちょ、待てよ!!」
私は冷たく言った。
「その“ボロ車”、必要なんでしょ?」
車はそのまま私の新しい家へ運ばれた。
もう実家には戻らない。
合鍵もいらない。
家族の許可もいらない。
初めて、自分の人生を取り戻した気がした。
エンジン音を聞いた瞬間、私は思った。
――ああ、やっと自由になれたんだ。
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