朝、姪から送られてきた一枚の写真を見た瞬間、私は言葉を失った。
自転車のサドルが、黒く焼け焦げていた。
ただの傷ではない。
誰かが明らかに火をつけた跡だった。
「これ、昨日の帰りに気づいたの……」
電話口の姪の声は震えていた。
まだ中学生。毎日その自転車で学校へ通っている。
雨の日も、部活で遅くなった日も、ひとりで乗って帰ってくる大事な足だった。
私は写真を見ながら、胸の奥が一気に熱くなった。
「それ、もう“いたずら”じゃないよ。被害届、出しな」
姪は一瞬黙った。
きっと怖かったのだと思う。
学校でのいじめ。
相手の顔もだいたい分かっている。
でも、先生に言っても「様子を見ましょう」。
相手の親に伝わっても「子ども同士のことですから」。
そんな言葉で、何度も飲み込まされてきた。
でも、今回は違う。
物を壊した。しかも火を使った。
一歩間違えれば、もっと大きな事故になっていたかもしれない。
私ははっきり言った。
「泣き寝入りする必要なんてない。怖いなら、私も一緒に行く」
その日の夕方、姪は母親と一緒に警察へ行った。
写真を見せ、状況を説明し、これまでのいじめのことも話した。
最初は小さな声だったらしい。
でも、話しているうちに姪は少しずつ顔を上げた。
「もう、やめてほしいんです」
その一言を聞いたとき、私は胸が詰まった。
翌日、学校の空気が変わった。
警察が来た。
先生たちの顔色が変わった。
今まで「様子を見ましょう」と言っていた担任も、急に真剣な顔で事情を聞き始めた。
そして、その夜。
相手の親から連絡が来た。
謝罪かと思った。
せめて「申し訳ありません」くらいは言うのかと思った。
でも、最初に出てきた言葉は違った。
「被害届、取り下げてもらえませんか?」
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