朝の通勤ラッシュ。信号待ちの列で、前の白い車の後ろに一枚の紙が貼られているのが見えた。
「MT 1日目。すみません。」
その文字を見た瞬間、私は少し笑ってしまった。
ああ、手動車の練習初日なんだな。
緊張しながらクラッチをつないで、エンストしないように必死なんだろうな。
でも、次の瞬間だった。
プァァァァァン!
後ろから、耳を刺すようなクラクションが鳴った。
一回じゃない。
二回、三回。
まるで「早く行け」「邪魔だ」「下手くそ」とでも言うように、しつこく鳴らし続けている。
前の白い車は、青信号になっても少しだけ動きが遅かった。
たぶん、緊張している。
ブレーキランプが消えたり、また点いたりしている。
私は見ていて分かった。
あの運転席の人、今めちゃくちゃ焦ってる。
手動車の最初の日なんて、ただでさえ怖い。
坂道じゃなくても、発進のたびに心臓が跳ねる。
隣の車線から見られているだけで、手汗が出る。
そこへ、後ろからあんなふうにクラクションを浴びせられたら、余計にパニックになるに決まっている。
それなのに、後ろの車の運転手は止まらなかった。
窓を開けて、身を乗り出すように叫んだ。
「おい!行けよ!そんな運転で道路出るな!」
その声が聞こえた瞬間、私の中で何かが切れた。
前の白い車は、また少しだけ揺れた。
たぶんエンストしかけた。
でも、なんとか踏ん張っている。
私は深呼吸した。
本当は、朝から揉め事なんて起こしたくない。
こっちだって仕事前だ。
時間もない。
でも、見て見ぬふりをしたら、あの白い車の人はきっと一日中、いや、しばらく運転が怖くなる。
「やっぱり自分には無理だ」
「迷惑をかけた」
「もう道路に出たくない」
そんなふうに思ってしまうかもしれない。
違うだろ。
誰にだって一日目はある。
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