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「ねえ、その箱…呪いでもかけてるの?」玄関に置かれた母からの宅配便は、マジックでびっしり書かれた“謎ワード”だらけだった。最初は完全に笑いものだと思っていたのに、ある日を境に“それだけが絶対に盗まれない現象”が発生。さらに周囲の住人まで真似し始めて、マンションの空気が変わっていく――
2026/06/17

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東京で一人暮らしを始めた頃、実家の母から荷物が届いた。

段ボールを玄関に置いた瞬間、私は一瞬固まった。

……デカい。

しかも、ただの段ボールじゃない。

ガムテープで何重にも補強され、表にはマジックで大きくこう書かれていた。

「佐川様へ ドアの前に置いてください」

……まあ、ここまでは普通だ。

問題はその下だった。

「うんち泥棒ダメ」「うんこ泥棒ダメ」「くそり泥」

いや、待って。

何を送ってきたの、この人。

しかも意味はよく分からないけど、とにかく“強い圧”だけは伝わってくる。

正直、最初は思った。

「いや、これ絶対変な人だと思われるやつじゃん」

近所に見られたら恥ずかしいし、置き配業者にも変な印象を持たれる。

だから一瞬、剥がそうかとも思った。

でも母に電話すると、返ってきたのはかなり真剣な声だった。

「それ、剥がしたらダメだから」

「なんで?」

「盗まれるから」

……いや、そんなことある?

私は東京に住んでまだ間もなかったし、正直そこまで実感がなかった。

でも母は続けた。

「こっちは本気でやってるから」

その言い方に、少しだけ引っかかった。

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それでも当時の私は半信半疑だった。


数週間後。

その意味を知ることになる。

ある日、帰宅すると、隣の部屋の前に置かれていた段ボールが消えていた。

次の日も消えていた。

さらに別の日も。

……あれ?

そして気づいた。

「普通に盗まれてる」

東京の置き配、思っていたよりずっと無防備だった。

その瞬間、私は初めて母の箱を思い出した。

あの意味不明な言葉。

あの圧倒的な手書き。

「これ、もしかして……正解なのか?」


それから数日後。

今度は私の部屋の前にも“事件”が起きた。

母の箱の横に置いてあった別の荷物が、なくなっていた。

でも、母の箱だけは残っていた。

そのまま。

一切、触られずに。

私はその光景を見て、しばらく動けなかった。

「え……これ、ガチで効いてるやつ?」

さらに驚いたのは、その後だった。

隣の部屋の住人が、私のところに来た。

「すみません、その箱って……何書いてるんですか?」

私は少し恥ずかしさを感じながら説明した。

すると彼は少し黙ってから言った。

「うちも真似していいですか」

……え?


それから数日後。

このマンションの廊下に、少しずつ“謎の箱”が増え始めた。

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「盗むな」
「触るな」
「天罰」
「中身見たら終わり」

統一感ゼロ。

でも誰も盗まない。

誰も触らない。

むしろ空気が変わった。

“ここは危ないかもしれない場所”という認識だけが広がっていった。


そして私はようやく理解した。

母はセンスがあるわけじゃない。

むしろ字は雑だし、言葉もかなり強引だ。

でも一つだけ確実に正しかった。

「盗む側は、少しでも“面倒そう”と思ったらやめる」

それだけ。


今ではもう、私はあの箱を恥ずかしいと思っていない。

むしろ安心している。

そしてたまに思う。

あれを考えた母の頭の中、一体どうなってるんだろうと。


ある日、母に聞いてみた。

「なんであんなこと書いたの?」

母は少しだけ笑ってこう言った。

「だって、普通に書いたら持っていかれるじゃん」

……いや、それだけ?

でも不思議と納得してしまった。


そして今日も、東京の玄関前にはあの箱が置かれている。

誰も触れない箱。

誰も盗まない箱。

そして私は知っている。

一番強い防犯は、防犯カメラでも鍵でもない。

“めんどくさそうな空気”なのかもしれない、と。

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