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盆の夜、私は死者のタクシーに乗ってしまった
2026/06/09

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八月のお盆のことだった。

私は桐谷悠真、二十四歳のフリーライターだ。主な仕事は都市伝説や心霊スポットの記事を書くこと。正直、幽霊なんて信じていなかったが、怖い話は金になる。だから私は関東の郊外にある廃墟や廃校を回り、ネットメディアに記事を売って生活していた。

その日も取材のため、郊外にある廃市立図書館へ向かっていた。

夜になり、最寄りのバスも終わってしまったため、私は道路脇でタクシーを待っていた。

しばらくすると、一台の古びた黒いタクシーが現れた。

運転席には白髪の老人が座っている。

車内に入った瞬間、私は妙な臭いを感じた。

古い煙草と湿った土の臭いだった。

「旧市立図書館までお願いします」

そう告げると、老人は無言で車を走らせた。

車内は異様なほど静かだった。

ふと見ると、老人は煙草を吸っている。

その箱に書かれた名前を見て、私は思わず目を見開いた。

「宵闇」

昭和時代に販売されていた煙草だった。

私は以前、記事を書くために古い煙草について調べたことがある。

確か三十年以上前に製造中止になったはずだ。

「珍しい煙草ですね」

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私がそう言うと、老人は初めてこちらを見た。

片目が白く濁っていた。

「昔から吸っているだけだ」

その声は妙にかすれていた。

私は気味が悪くなり、スマホで宵闇を検索した。

すると奇妙な記事が出てきた。

平成七年、製造工場が火災で全焼。

八十七人が死亡。

そして最後にこう書かれていた。

『最後に出荷された宵闇には火葬灰が混ざっていたという噂がある』

私は背筋が冷たくなるのを感じた。

やがて図書館の前に到着した。

料金を払おうとした時、老人が呼び止めた。

「これを預かってくれ」

差し出されたのは小さな桐箱だった。

「開けるな。捨てるな」

そう言われた瞬間、不思議な圧迫感を覚えた。

断ろうと思ったのに、気づけば受け取っていた。

私が車を降りて振り返ると、タクシーは霧の中へ消えていた。

まるで最初から存在しなかったかのように。

私は嫌な予感を覚えながらも、取材を続けることにした。

廃図書館の中は静まり返っていた。

懐中電灯の光だけが暗闇を照らしている。

その時だった。

コツ……

後ろから足音が聞こえた。

振り返る。

誰もいない。

気のせいかと思い歩き出す。

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コツ……

また聞こえた。

しかも今度は三歩後ろから。

私は立ち止まった。

すると足音も止まる。

歩くと聞こえる。

止まると消える。

まるで誰かが後ろについて来ているようだった。

気味が悪くなった私は急いで取材を終わらせようとした。

図書館の最奥にあった資料室へ入る。

そこで私は絶句した。

部屋の中央に棺桶が置かれていた。

その壁には古い遺影が飾られている。

そして写真の人物を見た瞬間、私は悲鳴を上げそうになった。

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