あれは今でも忘れられない夜です。
寝室の窓を少し開け、一人で眠っていました。
突然、愛犬のお千代が今まで聞いたことのない声で激しく吠え始めたんです。
「どうしたの?」
眠い目を開けて窓の方を見ると、網戸のすぐ外に、知らない男が立っていました。
心臓が止まるかと思いました。
「……あ、死んだ。」
そう思った次の瞬間、その男は窓を開けて部屋の中へ入ってきたのです。
幸い、お千代が必死に吠え続けたおかげで、リビングにいた夫が異変に気付き、駆けつけて男を取り押さえてくれました。
今でも思い出すだけで息が苦しくなります。
もし、お千代がいなかったら。
もし、お千代が私を守ろうとして傷ついていたら。
そう考えるだけで涙が止まりません。
でも実は、お千代が私を助けてくれたのは、この日が初めてではありませんでした。
数か月前の散歩中、お千代は突然足を止め、何度引っ張っても前へ進もうとせず、何度も私を家の方向へ引き戻そうとしたのです。
私は「今日は機嫌が悪いのかな」と思い、そのまま散歩を切り上げました。
ところが翌日、その散歩コースのすぐ向かいで殺人事件が発生したことをニュースで知りました。
事件の時間を確認すると、私がお千代と歩いていた、まさにあの時間帯だったのです。
もちろん、お千代が事件を予知していたとは言えません。
偶然だったのかもしれません。
それでも、二度も命を守られたような出来事を経験した私にとって、お千代はもう「ペット」ではありません。
私の大切な家族であり、命の恩人です。
あの日、お千代が必死に吠えてくれた声を、私は一生忘れることはありません。
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