「ママが言った。『あの猫を殺したのは私』」
その瞬間、私は本気で母を殴りそうになった。
あの猫は、私が泣いて頼んで家に連れてきた猫だ。
ホームセンターで見つけて、どうしても欲しくて、父に何度もお願いして、やっと家に連れて帰った猫だった。
父は最初、反対していた。
「世話できるのか?」
「途中で飽きるんじゃないのか?」
それでも私は何度も言った。
「絶対ちゃんと世話する」
結局、父が折れて、猫は家に来た。
最初の数ヶ月、私は本当に頑張った。
学校から帰ったら餌をあげて、トイレを掃除して、毎日一緒に遊んだ。
でも、だんだん変わっていった。
部活が忙しくなって、
友達と遊ぶ時間も増えて、
「あとでやる」
そう思う日が増えていった。
そして気がついたら、
餌も、トイレも、掃除も、
ほとんど母がやっていた。
母はもともと猫が苦手だった。
猫の毛でアレルギーが出て、子どもの頃に治ったはずのアトピーまで再発していた。
それでも母は、何も言わずに世話をしていた。
2年半。
ほとんど毎日。
猫がいなくなったのは、去年の12月だった。
朝、私が学校に行く時、
玄関のドアをきちんと閉めなかった。
その日は風が強かった。
母が気づいた時、玄関の扉は20センチほど開いていたらしい。
母は慌てて家の中を探した。
でも、猫はいなかった。
その話を聞いた時、私はすぐ外に飛び出した。
でも母は、家の中にいた。
「探しに行かなかったの?」
私は怒鳴った。
母は、静かに言った。
「行かなかった」
その時、私は母を軽蔑した。
2ヶ月後。
家の近くの側溝で、猫の死骸が見つかった。
首輪が一緒に落ちていた。
母はそれを見つけて、家に持って帰った。
夜、祖父の山に埋めた。
そしてその夜、母は言った。
「私は猫を殺しました」
父はすぐ言った。
「ママがちゃんと見てなかったからだろ」
その言葉を聞いた瞬間、私は父を見た。
その時、私は初めて気づいた。
この家で一番何もしていなかったのは、父だった。
猫を買う時、一緒に喜んでいたのは父だ。
でも世話をしたのは最初の数ヶ月だけ。
その後は全部、母だった。
それなのに父は、母を責めた。
私は父を睨んだ。
そして言った。
「猫を殺したのは、ママじゃない」
父が顔を上げた。
私は続けて言った。
「私だよ」
部屋が静かになった。
「ドア閉めなかったの、私」
父は何も言わなかった。
でも私は、まだ終わらせなかった。
「でもさ」
私は父を見て言った。
「世話してたの、誰?」
父は黙ったままだった。
私は母の手を掴んだ。
赤い湿疹で、皮膚がボロボロだった。
「2年半、ママだよ」
父は目を逸らした。
私は最後に言った。
「猫を殺したの、ママじゃない」
そして、ゆっくり言った。
「この家だよ」
それから数日後。
私はホームセンターに行った。
でも猫売り場には行かなかった。
代わりに、ペット用品売り場で一番高い猫用ベッドを買った。
家に持って帰ると、父が聞いた。
「なんでそんなもの買ったんだ」
私は言った。
「次に猫を飼うなら」
そして父を見て言った。
「全部、自分で世話できる人だけ」
父は、何も言い返さなかった。
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