「ここ、私がベビーカーのために予約した席なんですけど?」
東海道新幹線に乗った瞬間、私は思わず足を止めた。
赤ちゃんはベビーカーの中で、すやすや寝ている。
移動中に起こしたくないから、わざわざ大型荷物スペース付きの席を予約した。
ベビーカーを安全に置けるように。
通路を塞がないように。
周りに迷惑をかけないように。
ちゃんと考えて、ちゃんと予約した。
なのに、席に着いた瞬間、目の前の光景に固まった。
大型荷物スペースに、見知らぬスーツケースが3つ。
しかも、どれもやたら大きい。
まるでそこが最初から無料の荷物置き場みたいに、ぎゅうぎゅうに押し込まれていた。
いや、待って。
ここ、私たちの予約スペースなんだけど。
ベビーカーを止める場所は完全に塞がれている。
赤ちゃんは寝ている。
通路にはどんどん人が来る。
このまま立ち往生していたら、私たちが邪魔者みたいになる。
でも違う。
邪魔なのは、私たちじゃない。
勝手に人の予約スペースへ置かれた、そのスーツケースたちだ。
正直、その瞬間の私はかなり腹が立っていた。
「もうこれ、全部通路に出していい?」
そう思った。
というか、ほぼ手が伸びかけていた。
だって、こちらは料金を払って、必要だから予約している。
赤ちゃん連れで新幹線に乗るだけでも気を使うのに、なぜ知らない人の荷物のせいで、こっちが困らなきゃいけないのか。
でも、その時、夫が私を止めた。
「待って。勝手に動かすより、車掌さんに言った方がいい」
私は一瞬イラッとした。
いや、今すぐどかしたいんだけど。
この荷物の持ち主、絶対こっちのこと何も考えてないでしょ。
でも夫は続けた。
「不審物扱いとか、忘れ物扱いになったら面倒になる。ちゃんと車掌さんに確認してもらおう」
……悔しいけど、正論だった。
私は深呼吸した。
怒りに任せて動くより、ルールで返した方が強い。
そう思い直して、夫が車掌さんを呼びに行った。
私はその間、ベビーカーの横に立ったまま、赤ちゃんを見た。
こんな状況でも、赤ちゃんはぐっすり寝ている。
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