今日、産婦人科の待合室で、私はしばらく言葉を失った。
妊娠八か月でお腹はかなり大きく、歩くだけでも腰に重さがくる時期だった。
それでも定期健診だから仕方ないと思って、朝から準備して病院へ向かった。
受付を済ませて待合室に入った瞬間、私は思わず足を止めた。
椅子はほとんど埋まっていた。
けれど、座っている人の中には、明らかに付き添いで来ている男性が何人もいた。
スマホを見ている人。
腕を組んで目を閉じている人。
足を広げて座っている人。
その横で、私と同じようにお腹の大きい妊婦さんが数人、壁際に立っていた。
私は一瞬、自分の目を疑った。
ここは産婦人科だよね。
付き添いの休憩所じゃないよね。
そう思いながらも、最初は黙って立っていた。
診察まで少しなら我慢できると思ったからだ。
でも、五分、十分と時間が過ぎるうちに、腰がじわじわ痛くなってきた。
足もむくんできて、立っているだけで呼吸が浅くなる。
壁に手をつきながら、私は何度も座れる場所を探した。
けれど、空いている椅子はない。
目の前の男性は、スマホを見たまま顔すら上げなかった。
その隣には、お腹の大きな奥さんらしき女性が立っていた。
彼女も少しつらそうな顔をしていた。
私はさすがに見ていられなくなった。
「すみません。」
私はできるだけ穏やかに声をかけた。
「妊婦さんが何人か立っているので、少し席を譲っていただけませんか?」
すると、その男性はちらっと私を見ただけで、またスマホに目を戻した。
そして、面倒くさそうに言った。
「僕も疲れてるんで。」
その一言で、周りの空気が固まった。
私は一瞬、聞き間違いかと思った。
でも彼は本当にそう言った。
付き添いで来て、妊婦の奥さんを立たせたまま、自分は椅子に座って「僕も疲れてる」と言ったのだ。
隣にいた別の男性も、こちらを見て少し笑った。
まるで、私が大げさなことを言っているみたいな顔だった。
私はもう、その場で言い合う気にはなれなかった。
こういう人に直接お願いしても、たぶん通じない。
だから私はゆっくり受付まで歩いた。
受付の女性に声をかけた。
「すみません、待合室の椅子についてお願いがあります。」
受付の方は丁寧に顔を上げてくれた。
私は待合室を指さして言った。
「今、妊婦が何人も立っていて、付き添いの男性が座っています。」
「ここは産婦人科ですよね。」
「付き添いの方が座ること自体は悪くないと思います。」
「でも、妊婦本人が立っている状態は、さすがにおかしくないですか?」
受付の方は少し困った顔をした。
「こちらから強くお願いするのは、なかなか……。」
その瞬間、私の中で何かが切れた。
私は声を荒げずに、でもはっきり言った。
「では、妊婦が倒れてから対応するんですか?」
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