GW初日。やっと仕事もひと段落して、「今日はゆっくりできる」と思いながら帰宅した。
――その瞬間、目の前の光景に固まった。
自分の駐車場に、見知らぬ白いハイエースが停まっていた。
「……は?」
一瞬、場所を間違えたのかと思った。でも、見間違えるはずがない。番号も、位置も、完全に自分のスペースだ。
周りを見渡しても、それらしい人影はない。フロントガラスにも連絡先の紙すらない。
つまり――
完全な無断駐車。
胸の奥が一気に熱くなる。
(いやいや、ちょっと待て……誰だよこれ)
すぐに管理会社へ電話をかける。しかし返ってきたのは、機械的なアナウンス。
「ただいまGW休業中のため――」
……終わった。
助けは来ない。このままじゃ、自分の車が停められない。
仕方なく、建物の1階へ向かった。最近入居したばかりの部屋がある。
インターホンを押す。
――ピンポーン。
反応なし。
もう一度押す。
――ピンポーン。
……無音。
中にいる気配はある。でも、出てこない。
(ああ、そういうことか)
怒りが、静かに形を変えた。
ここで待っても意味はない。謝罪も、説明も、どうせ期待できない。
だったら――
こっちで“理解させる”しかない。
私は自分の車に戻り、ゆっくりとエンジンをかけた。
ハンドルを切り、白いハイエースへじわじわと近づける。
ギリギリまで詰める。さらに切り返し、前にも横にも逃げ道がない位置へ。
――完成。
白い車は、完全に“詰んだ”。
外から見れば、ただの駐車。でも、中にいる人間なら一発で分かる。
**「出られない」**と。
エンジンを切り、部屋に戻る。
そのまま、何事もなかったかのようにコーヒーを淹れた。
――30分後。
外からバタバタと足音が聞こえてきた。
窓から覗くと、男が白いハイエースの前で固まっている。
ドアを開け、閉める。前に行って、後ろに回って、また戻る。
そして、私の車に気づいた。
「……マジかよ」
小さくそう呟いたのが見えた。
しばらくすると、インターホンが鳴る。
――ピンポーン。
私は、すぐには出なかった。
もう一度鳴る。
――ピンポーン。
三回目で、ようやくドアを開けた。
「……すみません、この車……」
男は気まずそうに頭をかいた。
「そこ、俺の駐車場なんですけど」
静かに言うと、男の表情が一瞬止まる。
「いや、ちょっとだけだったんで……」
出た。典型的なやつ。
「空いてたからいいかなって」
「“空いてた”じゃなくて、“使われてなかっただけ”ですよね?」
言葉が、ピタッと止まる。
周囲の住人が、少しずつ様子を見に出てきていた。
視線が集まる。
「管理会社も休みで連絡つかないし、連絡先も置いてないし……どうするつもりだったんですか?」
男の顔が、みるみる赤くなる。
「いや、その……すぐどくつもりで……」
「じゃあ、なんでインターホン出なかったんですか?」
――沈黙。
完全に詰んだ。
周りから、ひそひそ声が聞こえる。
「無断駐車かよ……」「最悪だな……」
男は視線を落とし、ついに頭を下げた。
「……すみませんでした」
その一言で、空気が変わる。
私は少しだけ間を置いてから言った。
「次からは、ちゃんと確認してくださいね」
それ以上は責めなかった。
車に戻り、少しだけ位置をずらす。
白いハイエースは、ぎこちなくバックして出ていった。
去り際、男はもう一度頭を下げた。
その背中を見送りながら、深く息を吐く。
――やっと終わった。
部屋に戻り、窓から自分の駐車場を見る。
何もない、いつもの景色。
それだけで、こんなにも安心するとは思わなかった。
コーヒーを一口飲む。
さっきまでのイライラが、すっと消えていく。
GW初日。
少し波乱はあったけど――
ちゃんと、自分の場所は守れた。
それで十分だ。