玄関のドアを開けた瞬間、思わず言葉を失った。
床に置かれていたのは――ぐちゃぐちゃに潰れたラーメンの袋。
透明のビニールの中で、スープは完全に漏れ出し、容器は歪み、麺も具もぐちゃぐちゃに混ざっている。
まるで、誰かが一度踏みつけたかのような状態だった。
「……は?」
怒りが一気にこみ上げた。
スマホを取り出し、写真を撮る。
そして、そのまま投稿した。
「過去最強のゴミ配達員だと思うこの状態で配達し終える勇気は俺にはない」
正直、配達員以外ありえないと思った。こんな状態で届けるなんて、どう考えても異常だ。
――ところが。
数分後、コメント欄がざわつき始めた。
「これ、配達員じゃなくて店の問題じゃね?」「その容器で熱々ラーメン3段重ね?無理ゲーだろ」「どんなプロでもこぼれるわこんなん」
最初は意味がわからなかった。
でも、改めて袋の中をよく見ると――
確かに。
容器はペラペラ。密閉も甘く、しかも重ねて入れられている。
しかも、まだ熱い。
……これ、そもそも構造的にアウトじゃないか?
違和感が、確信に変わっていく。
俺はすぐに店に電話した。
「すみません、これどういう梱包してるんですか?」
店側は、少し間を置いてこう答えた。
「配送中の揺れなどによるものかと…」
――は?
「いや、これ揺れとかそういうレベルじゃないですよね?」
「容器がそもそも耐えられてないですよね?」
一瞬、電話の向こうが静かになった。
「……ですが、これまで問題は――」
「じゃあ今、目の前で起きてますよね?」
言葉が少し強くなったのが、自分でもわかった。
「これ、配達員のせいにして終わらせるつもりですか?」
その一言で、空気が変わった。
さらに俺は続けた。
「今、写真も動画も残してます。SNSにも上がってます。状況、全部見えますよね?」
沈黙。
そして、数秒後。
「……確認させていただきます」
電話は一旦切られた。
数十分後、再び連絡が来た。
今度は、明らかに態度が違った。
「大変申し訳ございませんでした。今回の件、当店の梱包方法に問題があった可能性が高いです」
やっぱりな。
「配達員様にも確認しましたが、受け取り時点ですでに不安定な状態だったとのことです」
その言葉を聞いた瞬間、胸の奥が少し痛んだ。
――あの人、悪くなかったのか。
むしろ、あの状態で運びきっただけでもすごいのかもしれない。
「全額返金と、改めて正しい形で再配送させていただきます」
さらに店側は、
「今後、同様のことが起きないよう梱包方法を改善します」
とはっきり言った。
電話を切ったあと、俺はすぐに投稿を見直した。
あの最初の一言。
「ゴミ配達員」
……完全に俺の早とちりだった。
すぐに追記を書いた。
「配達員のせいじゃなかった。
完全に店の梱包ミスだった。誤解してすまなかった」
コメント欄も一気に流れが変わった。
「ちゃんと訂正するの偉い」「配達員さん救われるなこれ」「こういうのが本当の情報共有」
最初はただの“怒りの投稿”だった。
でも結果的に、原因が明らかになり、改善までつながった。
そして何より――
叩く相手を間違える怖さを、思い知った。
あのまま感情だけで終わっていたら、一人の配達員を不当に傷つけていたかもしれない。
最後にもう一度だけ思った。
あのぐちゃぐちゃのラーメンよりも――
一番ダサかったのは、最初に決めつけた自分だった。