あのピンクの貼り紙が、また破かれていたのを見た瞬間、私は「これはただの悪戯じゃない」と確信した。
女トイレのドア前。
昨日貼ったはずの警告文が、まるで怒りをぶつけるように引き裂かれて床に散っていた。
私は店長だ。
この店で起きることは全部、最終的には私の責任になる。
でもあの瞬間だけは、責任とかマニュアルとか、そういう話じゃなかった。
これは“誰かが意図的に壊している”。
しかも一度じゃない。
貼っては破かれ、直しては壊される。
まるで試されているようだった。
「ここまでやるか?」と。
翌日、さらに異常はエスカレートした。
鍵穴にはガム。
ドアノブには不自然な油の跡。
ゴミ箱の中身だけ、何度も乱されている。
消臭スプレーの位置だけが毎回微妙に違う。
私は気づいた。
これは偶然じゃない。
“観察されている”のは、こっちじゃなくて相手だ。
相手はこの店の弱点を探している。
だから私は決めた。
「もう、貼るだけでは終わらせない」
その日から私は、店のトイレを“記録装置”に変えた。
まず、女トイレの出入りを時間単位で管理した。
次に、清掃チェックを秒単位で記録するようにした。
そして、異常が起きた場所はすべて図にした。
ただのメモじゃない。
“行動の地図”を作った。
ドアノブの位置。
ゴミ袋の結び目の乱れ方。
スプレーの角度。
床のわずかな汚れの変化。
全部、線でつないでいった。
最初は誰も理解しなかった。
「そこまでやる必要ありますか?」とスタッフは言った。
私は答えた。
「必要があるかじゃない。もう起きてるんです」
そして3日目。
地図は“ある一点”に収束した。
時間帯。
位置。
動き方。
同じパターンが繰り返されている。
犯人は変わっていない。
同一人物だ。
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