「ビルの屋上に車って、どうやって上げたんですか?」――その一言を笑った人たちが、数日後、全員黙ることになりました。
最初に気づいたのは、昼休みでした。
会社の窓から外を眺めていたら、向かいのビルの屋上に白い車が停まっていたんです。
普通の駐車場なら分かります。
でも、そこは高層ビルの屋上。
スロープもない。
車道もない。
どう見ても、車が自力で上がれる場所ではありませんでした。
私は思わず写真を撮って、社内チャットに送りました。
「屋上に車があるんですけど、これどうやって上げたんですかね?」
返ってきたのは、ほぼ笑いでした。
「模型じゃない?」
「新人って、見るところ独特だね」
「仕事中に謎解きしてる場合じゃないよ」
一番きつかったのは、主管の一言でした。
「そんな無駄なこと気にする暇があるなら、資料一枚でも作って」
周りも笑っていました。
私は少し恥ずかしくなって、スマホを伏せました。
でも、どうしても気になりました。
その車は、ただ置かれているだけに見えなかったからです。
翌日も、私は窓の外を見ました。
まだある。
その次の日も、まだある。
しかも車の周りには、作業服の人たちが何度も出入りしていました。
屋上の設備箱の近くに集まり、ケーブルのようなものを確認している。
あそこは駐車場ではない。
きっと何かの作業用だ。
そう思ってもう一度話すと、同僚はまた笑いました。
「もう屋上車マニアじゃん」
主管も鼻で笑いました。
「仕事に関係ない観察力だけはあるんだな」
その言葉に少し腹が立ちました。
でも、私は言い返しませんでした。
ただ、気づいたことをメモしておきました。
何日から車があるのか。
作業員が来る時間。
屋上設備の位置。
そして、非常階段の近くに延びているケーブル。
それが後で役に立つなんて、その時は私自身も思っていませんでした。
事件が起きたのは、金曜日の午後でした。
月末の締め作業中、突然、オフィスの照明が一斉に落ちました。
パソコンの画面も真っ黒。
サーバーも止まり、電話も一部つながらない。
一瞬で、フロア中がざわつきました。
「え、保存してない!」
「顧客データ開けない!」
「今日中に送る資料どうするの?」
主管が慌てて管理室に電話しました。
でも戻ってきた答えは最悪でした。
「非常用電源がうまく切り替わっていないらしい」
その瞬間、私はあの屋上の白い車を思い出しました。
あの車。
あのケーブル。
あの作業員。
私は立ち上がりました。
「屋上の車、非常電源の関係じゃないですか?」
主管がにらみました。
「今それどころじゃない」
でも私は引き下がりませんでした。
「何日も作業員がいて、設備の横にケーブルをつないでました。管理室に確認してください」
主管は面倒くさそうにしました。
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