「山下がやらかしたんだから、君も確認担当として反省文ね」――店長がそう言った瞬間、私は黙って注文履歴を開いた。
朝、出勤してすぐ、店の入口で足が止まった。
そこには、見たこともない量のメロンパンが山のように積まれていた。
カゴの上から崩れそうなほど袋が重なり、その前には手書きの紙。
「やらかしました(笑)
10個と10ダースを間違えました。
アルバイト 山下」
通りかかるお客さんは、みんな足を止めて笑っていた。
「え、これ全部メロンパン?」
「山下くん、派手にやったね」
店内は少しざわついていたけれど、雰囲気は悪くなかった。
むしろ、正直に書いた紙のおかげで、ちょっとした名物コーナーみたいになっていた。
でも、店長だけは違った。
奥から出てきた店長は、顔を真っ赤にして山下くんをにらんでいた。
山下くんは新人で、まだ入って一か月。
手元の伝票を握りしめて、何度も頭を下げていた。
「すみません、本当にすみません……」
私はその姿を見て、少し胸が痛くなった。
確かにミスはミスだ。
でも、まだ新人に発注を一人で任せていた時点で、店側にも問題はある。
そう思った次の瞬間、店長が私の方を見た。
「君も確認担当だよね?」
私は一瞬、意味が分からなかった。
「え?」
「発注の確認、普段は君が見てるでしょ。今回も君に責任あるから」
周りの空気が止まった。
私はゆっくり言った。
「その日、私、休みでしたけど」
店長は目をそらした。
「でも普段の教育が足りなかったんじゃないの?」
出た。
責任の押しつけ。
自分が新人に任せきりにしたことは隠して、私にも反省文を書かせるつもりだ。
しかも、本部に「スタッフ全体の確認不足でした」と報告すれば、店長自身の管理ミスは薄まる。
私はその場で言い返したかった。
でも、怒鳴ったら負けだと思った。
だから笑顔で言った。
「分かりました。では、事実確認してからにしましょう」
店長は少しだけ安心した顔をした。
たぶん、私が素直に引き下がったと思ったのだろう。
でも違う。
私は事務所に入り、すぐに発注システムを開いた。
注文時間。
操作アカウント。
承認者。
ログは全部残っていた。
下注文時刻は前日の20時13分。
操作したのは山下くんのアカウント。
最終承認したのは店長のアカウント。
そして私は、その日シフトに入っていない。
次に、排班表を出した。
さらに、事務所の入退室記録も確認した。
私の名前はどこにもない。
逆に店長は、その時間帯に事務所へ入っていた。
私は全部スクリーンショットで保存し、資料にまとめた。
翌朝のミーティング。
店長はいつものように腕を組んで立っていた。
「昨日の誤発注について、再発防止のために反省点を共有します」
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