年末の買い出しって、いつも少しだけ気が重い。
スーパーに行けば、野菜も高い。
魚も高い。
肉なんて、いいものを選ぼうとすると、あっという間に予算を超える。
「年末くらい少し贅沢したい」
そう思う気持ちはあるのに、値札を見るたびに現実に戻される。
そんな中、岐阜県の養老へ行くと、必ず立ち寄る店がある。
年末年始になると、朝から人が並ぶ。
地元の人らしき家族連れもいれば、明らかに遠くから来たような人もいる。
最初は正直、そこまでして肉を買う理由が分からなかった。
「肉屋さんでしょ?」
「そんなに違うものなの?」
そう思いながら売り場をのぞいた瞬間、答えが分かった。
パックに貼られていた値札には、
飛騨牛 小間切 100g 268円。
一瞬、見間違いかと思った。
飛騨牛といえば、普通は“ちょっと特別な日”に買う肉だと思っていた。
焼肉屋で見る名前。
旅先で食べるご当地グルメ。
贈り物にすると喜ばれるブランド牛。
それが、目の前のパックには普通の買い物みたいな顔をして並んでいる。
しかも、小間切れとはいえ、飛騨牛。
パックの中には赤身と脂がきれいに混ざった肉がぎっしり入っていて、見るからに使いやすそうだった。
すき焼き風にしてもいい。
牛丼にしてもいい。
肉じゃがに入れても、いつもの味が一段上がりそう。
隣にいた人も値札を見て、
「え、これ本当にこの値段?」
と小さくつぶやいていた。
気持ちは分かる。
今の時代、普通の牛肉でも気軽には買えない。
家族分を買おうとすれば、会計前に一度カゴの中を見直してしまう。
「今日は豚肉にしようか」
「鶏肉で十分かな」
「牛肉はまた今度でいいか」
そんなふうに、何度も自分を納得させてきた人は多いと思う。
だからこそ、この値札には妙な説得力があった。
ただ安いだけじゃない。
“年末くらい、家で少しおいしいものを食べたい”という気持ちを、ちゃんと受け止めてくれる値段だった。
もちろん、切り落としだからこその価格なのかもしれない。
部位にこだわる人から見れば、「高級ステーキとは違う」と言う人もいると思う。
でも、家庭の食卓で一番ありがたいのは、案外こういう肉だ。
特別すぎて使い方に迷う肉より、
冷蔵庫にある野菜と一緒に炒められる肉。
鍋にも入れられて、丼にもできて、子どもも喜ぶ肉。
そういう意味では、これほど現実的な“ごちそう”はない。
年末に朝から人が並ぶ理由。
それは、単に安いからだけじゃないと思う。
物価が上がって、何を買うにも少し慎重になる中で、
「これなら買える」
「これなら家族に食べさせたい」
と思えるものが、ちゃんと並んでいるからだ。
高級なものを無理して買うのではなく、
日常の延長で少しだけ贅沢できる。
そのちょうどよさが、きっと人を集めている。
値札を見た瞬間、思わず笑ってしまった。
「これは並ぶわ」
そう思いながら、気づけば自分もパックを手に取っていた。
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