新幹線に乗った瞬間、私は思わず足を止めた。
前の座席に座っていた若い男が、まるで自分の部屋にいるかのように、靴を脱ぎ、両足を前の座席の背もたれに高々と乗せていたのだ。
青い座席の上に伸びた足。
通路側から見てもはっきり分かるほど、行儀が悪い。
周囲の乗客も気づいていた。
けれど、誰も何も言わない。
見て見ぬふりをする人。
眉をひそめる人。
小さくため息をつく人。
それでも、その男だけは平然としていた。
私は自分の席に座りながら、しばらく様子を見た。
もしかしたら、すぐに足を下ろすかもしれない。
そう思っていた。
しかし、男は下ろすどころか、さらに体を深く沈め、スマホをいじりながら足を揺らし始めた。
まるで新幹線の車内ではなく、自宅のソファに寝転んでいるかのようだった。
前の座席の人が少し身動きをするたびに、男の足が視界に入る。
近くに座っていた女性は明らかに嫌そうな顔をしていた。
通路を通る人も、彼の足を避けるように歩いていた。
私は、ついに我慢できなくなった。
できるだけ穏やかな声で、男に声をかけた。
「すみません。ここは公共の場所なので、足を下ろしてもらえませんか?」
すると男は、ゆっくりこちらを見た。
そして、鼻で笑った。
「は? 俺、ちゃんと金払って乗ってるんですけど」
その言い方に、車内の空気が一瞬で固まった。
私は続けた。
「お金を払っているのは、あなた一人ではありません。みんな同じように乗っています」
すると男は、さらに不機嫌そうに顔を歪めた。
「だから何? 俺が買った席でどう座ろうが自由でしょ。嫌ならそっちが移動すれば?」
その一言で、私の中の何かが静かに切れた。
怒鳴り返すこともできた。
言い合いを続けることもできた。
でも、こういう相手に感情でぶつかっても意味がない。
大声を出せば、こちらまで迷惑な客になってしまう。
私は深呼吸をして、黙ってスマホを取り出した。
彼の顔ではなく、足を乗せている座席の状態だけを撮った。
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