朝、いつものように玄関を開けて新聞を取りに出た瞬間だった。
「……は?」
思わず声が出た。
うちの門柱——表札とインターホンとポストが一体になっているあの柱が、ぐにゃっと傾いていた。
しかも、カバーは外れ、部品が地面に散らばっている。
完全に壊れている。
一瞬、頭が真っ白になった。
「なんで!?」
近づいてよく見ると、明らかに車か何かがぶつかった跡だった。
ポールの根元が曲がり、外装パネルも割れている。
そして、そこで私は思い出した。
——これ、三回目だ。
最初は去年の秋だった。
ある朝、同じように門柱が曲がっていた。
そのときは「誰かが不注意でぶつけたのかな」と思い、仕方なく修理した。
二回目は春。
やっと直したばかりだったのに、また同じ状態。
さすがに不審に思い、防犯カメラを設置した。
そして今回——
三回目。
私は深く息を吐いた。
「……やっぱりか」
家に戻り、すぐにスマホで防犯カメラの映像を確認した。
時間は、昨日の夜。
画面に映っていたのは、見慣れた車だった。
ゆっくりバックしてくる一台の車。
そして——
ゴン。
鈍い音と同時に、門柱が揺れる。
運転席のドアが開き、運転していた人物が降りてくる。
その顔を見た瞬間、私は思わず苦笑いした。
「……やっぱりお前か」
隣の家の男だった。
以前から駐車の仕方が荒く、よく道路ギリギリまでバックしてくる人だった。
しかも今回、ぶつけたあとどうしたと思う?
車を少し前に出して、
そのまま何事もなかったかのように家に入っていった。
謝罪もなし。
確認すらなし。
完全に当て逃げだった。
私はその場で警察に通報した。
事情を説明し、防犯カメラの映像も提出。
警察は「まず相手に確認します」と言い、しばらくして隣の家へ向かった。
すると——
10分ほどして、警察官と一緒に隣の男がうちの前に来た。
男は私を見るなり、なぜか不機嫌そうな顔をした。
「……あのですね」
いきなり口を開いた。
「そもそもこのポスト、道路にはみ出してません?」
私は一瞬、耳を疑った。
「……は?」
「だから、こっちが普通にバックしたら当たる位置にあるんですよ。
そっちの設置が問題なんじゃないですか?」
まさかの逆ギレ。
警察官も少し驚いた顔をしていた。
私は静かにスマホを取り出した。
「これ、見てもらえます?」
防犯カメラの映像を再生する。
そこには、はっきり映っていた。
男の車が、ゆっくりバックして——
門柱にぶつかる瞬間。
しかも、ぶつかったあと一度降りて確認している。
つまり、気づいていた。
それを見た瞬間、男の顔色が変わった。
警察官が淡々と言った。
「確認してますよね?」
男は黙った。
「そしてそのまま立ち去っていますね」
完全に詰んだ。
さっきまで偉そうだった男は、急に視線をそらし始めた。
私は静かに言った。
「これ、三回目です」
男の肩がピクッと動いた。
「前の二回も、あなたじゃないんですか?」
もちろん証拠はない。
でも、男の顔を見れば分かった。
図星だった。
警察官が言った。
「まずは修理費の話になりますね」
門柱は、表札・ポスト・インターホン一体型。
修理費はそれなりにかかる。
男は小さく舌打ちしたあと、しぶしぶ言った。
「……払いますよ」
その言葉を聞いた瞬間、私はやっと少しだけスッとした。
正直、お金の問題じゃない。
三回も壊されて、
しかも逆ギレまでされて、
それが一番腹が立っていた。
その後、修理費はすべて相手負担になった。
そして——
それ以来、あの男の車は。
異様なほど慎重にバックしている。
むしろ、以前より1メートル以上手前で止めるようになった。
まあ、当然だろう。
だって次にぶつけたら——
今度は逃げられないから。