深夜の高速道路。長距離運転でかなり疲れていた私は、やっとの思いでパーキングエリアに車を入れた。
「トイレ行って、少し休んだらまた走ろう」
そう思って駐車場に入った瞬間、違和感を覚えた。
トイレのすぐ前のスペースが、全部埋まっている。
しかもよく見ると——
SUV、ハイエース、ワゴン車。窓にはアルミの遮光シート、カーテンも完全に閉まっている。
車内は真っ暗。
明らかに車中泊だった。
「……マジか」
トイレに一番近い場所を、ほぼ全部占領している。
仕方なく、私はかなり遠くのスペースに停めた。
トイレまで歩く途中、ある光景が目に入った。
年配の男性が、杖をつきながらゆっくり歩いている。
その横で、女性が支えていた。
「もう少し…もう少しでトイレだから」
女性の声が聞こえた。
かなりつらそうだった。
その二人も、どうやら遠くに車を停めるしかなかったらしい。
私は思わず、さっきの車中泊の列を振り返った。
トイレのすぐ前。
一番便利な場所。
そこには——
完全に寝る体勢の車がずらっと並んでいる。
正直、イラッとした。
仮眠なら分かる。
長距離運転なら、少し休むのは当然だ。
でもこれは違う。
完全に「泊まる準備」だった。
しかも、わざわざ一番便利な場所で。
トイレから戻る途中、私はその車の前を通った。
すると、一台のハイエースのドアが開いた。
中から男が出てきた。
40代くらい。
私は思わず声をかけた。
「すみません」
男は面倒くさそうに振り向いた。
「この車、ずっとここ停めてますよね?」
男は眉をひそめた。
「……それが?」
「トイレ前のスペース、全部車中泊で埋まってますよ」
私は駐車場を指さした。
「普通の利用者が困ると思いません?」
男は笑った。
「別にいいでしょ」
「は?」
「高速料金払ってるんだから、どこ停めても自由でしょ」
完全に開き直りだった。
その声を聞いて、隣の車のドアが開いた。
別の男が顔を出す。
「何?文句?」
どうやら仲間らしい。
私は言った。
「さっき、足の悪そうなおじいさんが遠くから歩いてきてました」
「本来ならここ停められたはずですよね」
男は肩をすくめた。
「知らないよ」
「早い者勝ちでしょ」
その瞬間、後ろから声がした。
「早い者勝ちじゃないですよ」
振り向くと、さっきの女性だった。
杖の男性を支えている。
女性は静かに言った。
「父は足が悪いんです」
駐車場を見た。
「だからトイレの近くを探したんです」
「でも全部埋まってて…」
その言葉で、空気が一瞬止まった。
ハイエースの男は何も言わない。
女性は続けた。
「仮眠するのは自由だと思います」
「でも…ここは休憩する場所ですよね」
トイレ前の車列を見た。
「普通に使いたい人が困るのは、違うと思います」
しばらく沈黙が続いた。
やがてハイエースの男が、舌打ちをした。
「……分かったよ」
ドアを開ける。
仲間に言った。
「移動するぞ」
「え?」
「端行く」
数分後。
あの一列の車は、ゆっくり駐車場の奥へ移動した。
トイレ前のスペースが空いた。
女性は小さく頭を下げた。
「ありがとうございます」
私は首を振った。
正直、感謝されることじゃない。
ただ思った。
ルールがなくても、守るべきマナーはある。
そしてそれを無視した瞬間、
誰かが必ず困る。