学割って、ここまで強いのか。
その日、私は前から気になっていた学習ソフトを申し込もうとしていた。
通常価格は58,400円。
正直、画面を見た瞬間に一度閉じかけた。
高い。
でも、仕事でも勉強でも使えそうだったから、どうしても諦めきれなかった。
すると決済画面の途中で、学生認証の案内が出てきた。
私は社会人向けの講座に通っていて、学生証も発行されている。
試しに認証してみると、数分後に画面が切り替わった。
「スタンダードプラン学生価格」
割引、57,500円。
合計金額、990円。
思わず二度見した。
いや、桁を間違えているのかと思った。
でも何度見ても、税込990円。
私は震える手で決済した。
これ、普通に神すぎる。
ところが問題は、そのあとだった。
アカウント確認のために店舗カウンターへ行くと、対応した店員さんが私の注文画面を見て、露骨に眉をひそめた。
「え、990円ですか?」
「はい、学生認証が通ったので」
そう答えた瞬間、店員さんの声が少し大きくなった。
「これはちょっと……普通ありえないですね」
後ろに並んでいた人たちの視線が、一気にこちらへ向いた。
店員さんはさらに画面を見ながら言った。
「もしかして、何か抜け道みたいな方法を使いました?」
その言い方に、胸の奥がスッと冷えた。
私はただ、公式の案内どおりに申し込んだだけ。
学生証もある。
認証メールもある。
それなのに、まるで不正をした人みたいに見られている。
「公式の学生価格です。こちらに認証完了メールもあります」
私はスマホを見せた。
でも店員さんは、まだ疑うような顔で言った。
「最近の学生さんって、こういうの本当に詳しいですよね。うまくやるというか」
その瞬間、さすがに黙っていられなくなった。
怒鳴りはしなかった。
でも、はっきり言った。
「確認せずに不正扱いするなら、責任者の方を呼んでください」
店員さんは一瞬固まった。
「いや、そこまでの話では……」
「そこまでの話です。今、私を不正利用者みたいに言いましたよね」
後ろの空気が変わった。
さっきまで興味本位で見ていた人たちも、少し静かになった。
私はスマホの録音をオンにし、学生証、公式ページ、注文履歴、認証完了メールをすべて開いて待った。
しばらくして、店長らしき男性が出てきた。
私は最初から順番に説明した。
通常価格58,400円。
学生価格の適用。
割引57,500円。
支払い合計990円。
そして店員さんに「抜け道を使ったのか」と言われたこと。
店長は画面を確認し、奥で本部の案内も調べた。
数分後、戻ってきた店長は深く頭を下げた。
「申し訳ございません。こちらの学生価格は正式なキャンペーンで、お客様のご利用に問題はありません」
店員さんの顔色が変わった。
店長は続けた。
「スタッフ側の確認不足です。不快な思いをさせてしまい、大変失礼いたしました」
私はそこで、ようやく息を吐いた。
さっきまで疑うような目で見ていた店員さんも、気まずそうに頭を下げた。
「申し訳ございませんでした」
私は静かに答えた。
「安く買えたからって、ズルをしたわけじゃありません。疑う前に、まずルールを確認してほしかったです」
店長はさらに、迷惑をかけたお詫びとして、追加で三ヶ月分の会員特典をつけてくれた。
まさかの990円に、さらに三ヶ月追加。
後ろに並んでいた人の中から、小さく「すご……」という声が聞こえた。
帰り道、私は注文画面をもう一度見た。
小計58,400円。
割引57,500円。
合計990円。
あの店員さんには悪いけど、最後はかなり気持ちよかった。
安く買うことは恥ずかしいことじゃない。
制度をちゃんと調べて、正しく使っただけ。
本当に恥ずかしいのは、知らないルールを勝手に“不正”と決めつけることだと思う。
私はそのソフトを開きながら、心の中でつぶやいた。
学割、神すぎる。
そして、疑う前に調べるって大事すぎる。