「車に乗ったなら、すぐ出るんだろ!」
そう勝手に決めつけた見知らぬ男が、私の車の前にぴったり横づけして、十分近く睨み続けてきた。
その日、私はスーパーの駐車場で母を待っていた。
母は足が少し悪く、買い物袋を持って長い距離を歩くのが大変だから、私は出口に近い場所で車を停めたまま待っていた。
エンジンはかけていない。
ウインカーも出していない。
バックランプも点いていない。
つまり、私はどこからどう見ても「今すぐ出ます」という合図なんて一つも出していなかった。
なのに、白い軽自動車が突然、私の車の前にスッと入ってきた。
最初は、通り抜けるのかと思った。
でも違った。
その車は私の前で止まり、運転席の男がフロントガラス越しにこちらをじっと睨んできた。
「早く出ろ」
声は聞こえなくても、顔がそう言っていた。
私は窓を少し開けて、できるだけ冷静に言った。
「すみません、まだ出ません。母を待っているだけです」
すると男は、まるで信じられないものを見るような顔をした。
そしてハンドルを叩きながら怒鳴った。
「車に乗ってるだろ!出るんじゃないのか!」
いや、乗っているだけだ。
車に乗ったら全員がすぐ出庫する決まりでもあるのか。
私はもう一度言った。
「本当にまだ出ません。人を待っています」
でも男は引かなかった。
むしろ車をさらに前へ出し、私の車の進路を完全に塞いだ。
もし私が出ようとしても、出られない位置だった。
つまり彼は、私に早く出ろと言いながら、自分で私の車を塞いでいた。
意味が分からなかった。
後ろから別の車が来て、クラクションを鳴らした。
その白い車が通路を塞いでいるせいで、出口へ向かう車まで止まり始めた。
男はそれでも私を睨み続けていた。
まるで、悪いのは全部私だと言わんばかりに。
私はその瞬間、言い合うのをやめた。
相手に常識が通じない時、声を大きくしても疲れるだけだ。
私はスマホを取り出し、駐車場の管理室に電話した。
「すみません。車の前を塞がれて動けません。出口付近の通路も詰まっています」
男は私が電話しているのを見て、少し顔色を変えた。
それでもまだ強気な顔で、こちらを睨んでいた。
数分後、駐車場の管理員さんが小走りでやって来た。
管理員さんは状況を見た瞬間、男の車に近づいて言った。
「こちらの方、出るとは言っていませんよね。なぜ通路を塞いでいるんですか?」
男はすぐに言い返した。
「車に乗ってたから出ると思ったんだよ!こっちはずっと待ってたんだ!」
管理員さんは呆れたように、すぐ横を指さした。
「では、あちらの空いている場所に停めればいいですよね」
その一言で、男の顔がピタッと止まった。
そう。
実は少し離れた場所に、空いている駐車スペースがあったのだ。
私は最初から気づいていた。
でも男は、なぜか私の場所にこだわり続けた。
管理員さんは続けた。
「空いている場所があるのに、わざわざ通路を塞いで他のお客様に迷惑をかけるのは困ります」
後ろで待っていた車の運転手も窓を開けて言った。
「こっちも出られないんですけど」
別の人も小さくつぶやいた。
「勝手に出るって決めつけて怒るの、怖すぎる」
男は一気に黙った。
さっきまであれだけ睨んでいたのに、今度は視線をそらしている。
管理員さんは車のナンバーを控え、淡々と言った。
「今回は記録しておきます。すぐ移動してください」
男は何か言いたそうに口を開いたが、周りの視線に負けたのか、結局何も言わなかった。
そして、ぎこちなく車をバックさせた。
その時、ちょうど母が買い物袋を持って戻ってきた。
母は不思議そうに言った。
「あら、どうしたの?」
私は苦笑いしながら答えた。
「私が出ると思い込んだ人に、車の前を塞がれてた」
母は男の車が離れていくのを見て、ぽつりと言った。
「思い込みで人を動かそうとする人って、だいたい自分が一番邪魔してるのよね」
私は思わず笑ってしまった。
本当にその通りだった。
男は、私が車に乗っただけで「出る」と決めつけた。
私が説明しても聞かなかった。
私の前を塞ぎ、通路を塞ぎ、後ろの車まで止めた。
そして最後に、自分だけが恥をかいて去っていった。
私は母を乗せ、ゆっくり車を出した。
その時、さっき男が執着していた私の駐車スペースには、別の車がすんなり入ってきた。
男が待ち続けた場所は、結局その男のものにはならなかった。
車に乗ったからといって、すぐ出るとは限らない。
黙っているからといって、何をしてもいいわけじゃない。
私は最後に心の中でつぶやいた。
「私が車に乗っただけで、あなたに車位を譲る義務なんてありません」