今日、総武線快速に乗っていて、久しぶりに「これはさすがに…」と思う光景に遭遇した。
場所は成田空港行きの総武線快速。
夕方の時間帯で、車内はそれなりに混んでいた。
ドアが開いて車内に入った瞬間、まず目に入ったのが――
大量のスーツケースだった。
しかも普通の量じゃない。
黒、青、紫、黄色…
大小さまざまなキャリーケースが、まるで壁みたいに積み上がっている。
最初は「誰かが降りる準備でもしてるのかな」と思った。
でもよく見ると違った。
そのスーツケース、全部通路の真ん中に置かれていたのだ。
つまり――
通路が完全に塞がれている。
しかも場所はよりによって、優先席の前。
横を通ろうとしても、隙間がほとんどない。
前の乗客が体を横にして、なんとか通ろうとしている。
「すみません…通ります」
そう言いながら、やっとの思いで通り抜ける。
スーツケースにぶつかりそうになりながら、みんな無理やり体をねじって通っていた。
その様子を見て、私は思わずスーツケースの持ち主を探した。
すると、すぐ横の優先席に――
二人の男性が座っていた。
そしてその足元には、さっきのスーツケースの山。
つまり。
全部この人たちの荷物だった。
でも驚いたのはそこじゃない。
二人ともスマホを見ながら、完全にくつろいでいる。
周りの乗客が通れずに困っているのに、まるで気づいていないかのようだった。
いや、正確に言うと。
たぶん気づいている。
でも、気にしていない。
車内の空気がなんとなくピリピリしているのは、明らかだった。
そのとき、次の駅で数人の乗客が乗ってきた。
その中に、小さな杖を持ったおじいさんがいた。
車内を見回して、優先席のほうを見る。
でも。
そこにはスーツケースの山。
そしてその横でスマホをいじる二人。
おじいさんは少し困った顔をして、結局つり革を持った。
その瞬間、車内の空気が一段と重くなった。
誰も何も言わない。
でも、みんな気づいている。
「おかしい」と。
しばらくして、一人のサラリーマンが通路を通ろうとした。
でも、やっぱり通れない。
スーツケースが邪魔で、完全に道を塞いでいる。
サラリーマンは少し困った顔をして言った。
「すみません…ちょっと通れないんですが」
その声に、スマホを見ていた男性の一人が顔を上げた。
そして一言。
「ちょっと待って」
そう言っただけで、またスマホに目を落とした。
動く気配はない。
通路はそのまま。
数秒、沈黙が流れた。
サラリーマンは一瞬何か言いかけたが、結局何も言わずに、体を横にして無理やり通っていった。
その姿を見て、周りの乗客も微妙な顔をしていた。
でも、誰も強く言わない。
日本の電車ではよくある空気だ。
「面倒なことには関わりたくない」
そんな雰囲気。
でも。
次の瞬間、その空気が変わった。
さっきの杖を持ったおじいさんが、スーツケースに足を引っかけそうになったのだ。
「おっと…」
周りの乗客が一瞬ざわついた。
そのとき。
ドアの近くに立っていた女性が、はっきりとした声で言った。
「通路、完全に塞いでますよ」
車内が一瞬静まり返った。
スマホを見ていた男性が顔を上げる。
女性は続けた。
「ここ、優先席ですよね?」
そしてスーツケースを指差して言った。
「通れないし、危ないです」
数秒、沈黙。
車内の視線が一斉に集まった。
そのとき、もう一人の男性がようやく立ち上がった。
そして面倒くさそうにスーツケースを少し動かした。
「…これでいい?」
ぶっきらぼうな声。
でも、その瞬間。
通路が少しだけ広くなった。
さっきまで通れなかった人たちが、ようやく普通に通れるようになった。
そして、杖のおじいさんに席を譲る人も現れた。
車内の空気が、少しだけ戻った気がした。
電車はそのまま成田方面へ走り続けた。
でも、さっきの光景がずっと頭に残っていた。
日本の電車って、基本的に静かだ。
誰も強く言わない。
でも。
今日わかった。
本当は、みんな思っている。
「それは違うだろ」って。
そして時々。
たった一人が声を上げるだけで、
空気は変わるんだと思った。