昨日の夜、いつもの駐車場に車を停めた。
仕事が遅くなってしまって、帰宅したのは22時過ぎ。駐車場はほとんど埋まっていて、空いていたのは一台分だけだった。
そのスペースの後ろには、一台の古いスポーツカーが停まっていた。
いわゆる旧車ってやつだ。
ボディはきれいに磨かれていて、明らかにオーナーが大事にしている車。「好きな人なんだろうな」と思いながら、その前に自分の車を停めた。
特に気にも留めず、そのまま家に帰った。
そして翌朝。
出勤しようと駐車場に向かったときだった。
自分の車を見て、思わず足が止まった。
「……え?」
後ろのバンパーが、妙に汚れている。
近づいてよく見ると、白いボディに無数の黒い点がついている。
細かい黒い斑点。
まるで泥を細かく飛ばされたみたいな感じだ。
しかも範囲が広い。
バンパーからナンバープレート、その上の部分までびっしり。
「……これ、何?」
最初に頭に浮かんだのは
当て逃げ。
でもよく見ると、傷はない。
擦った跡でもない。
ただひたすら
黒い点々。
指で触ると、ザラっとしている。
「まさか……スプレー?」
嫌な想像が頭をよぎる。
いたずら?
嫌がらせ?
周りの車を見回した。
すると後ろには、昨日のあの旧車がまだ停まっている。
そのとき、ふと気づいた。
その車のマフラーの位置と、黒い点がついている高さが
ほぼ同じ。
「……まさか」
少し調べてみると、すぐに答えが出た。
旧車や改造車は、冷間始動のとき
排気管に溜まった水分と一緒に煤やオイルの汚れが吹き出すことがある。
つまり。
あの車がエンジンをかけた瞬間、
排気がそのまま自分の車に直撃した可能性。
しかも、かなりの量。
実際、ネットで調べると似たような写真が出てきた。
「マジかよ……」
ため息が出た。
とりあえずティッシュで拭いてみた。
黒い汚れがベタっと広がる。
完全に排気の汚れだ。
「これ洗車確定じゃん……」
そのときだった。
後ろからエンジン音が聞こえた。
振り返ると、あの旧車のオーナーらしき男性が車に乗り込んでいた。
40代くらいの男性。
エンジンをかける。
すると――
ボボボボッ
という音と同時に、
排気口から水が
バシャッ
と飛び出した。
思わず自分の車を見る。
……やっぱりだ。
完全にこの位置。
私は思わず声をかけた。
「すみません」
男性がこちらを見る。
私は自分の車の後ろを指さした。
「これ、排気でついたんじゃないですか?」
男性は一瞬だけ見て、
そして言った。
「旧車だからね」
それだけ。
謝るでもなく、
驚くでもなく。
ただ、当然みたいな顔。
「いや……かなり汚れてるんですけど」
そう言うと、男性は肩をすくめた。
「仕方ないよ」
その一言で、正直ちょっとイラっとした。
確かに機械の問題かもしれない。
でも。
普通は一言くらいあるだろ。
「すみません」とか。
でもその男性は、もう話す気がない様子で
エンジンをふかし始めた。
そのときだった。
後ろのマフラーから
また
ボボッ
と黒い水が飛んだ。
私は思わず一歩下がった。
そして、ふと笑ってしまった。
「……なるほどね」
私はその場でスマホを取り出して、
自分の車の写真を撮った。
黒い点だらけのバンパー。
そしてその後ろの旧車。
証拠は十分だ。
男性はそれを見て少し顔をしかめた。
私は最後に一言だけ言った。
「次からは、停める場所考えます」
男性は何も言わなかった。
そのまま車を出していった。
残されたのは、
黒い点だらけの自分の車。
私はしばらくそれを見て、
ため息をついた。
そして思った。
駐車場で避けるべきものは
・柱・狭いスペース
それだけだと思っていた。
でも、今日新しく覚えた。
旧車の後ろ。
ここだけは、
二度と停めない。