先日、出張帰りに特急列車に乗ったときの話。
その日はかなり疲れていて、
「とにかく静かに帰れればいいな」と思いながら席に座った。
車内は比較的落ち着いていて、
みんなスマホを見たり、本を読んだりしている。
ところが、席に座ってすぐに妙な光景が目に入った。
前の座席のテーブルの上に――
足が乗っている。
最初は意味が分からなかった。
よく見ると、それは靴ではなく
靴下のままの足。
思わず視線を上げると、
その足の持ち主は通路側の席に座る中年の男性だった。
白髪混じりの角刈りで、顔は少し赤い。
そして床には、きれいな革靴が脱ぎ捨てられている。
つまり。
靴を脱いで、前の席のテーブルに足を乗せている。
あのテーブルって、本来は何のためにあるか。
そういう用途だ。
そこに、他人の足。
しかも靴下。
しかも正直――
ちょっと臭う。
私だけじゃない。
周りの乗客も気づいているようだった。
斜め前の女性は何度も顔をしかめているし、
通路側の男性もチラチラその足を見ている。
でも、誰も何も言わない。
日本の公共交通機関ではよくある空気だ。
「関わらない方がいい」
そんな沈黙。
その男はというと、完全にくつろいでいた。
スマホを見ながら、足をテーブルに乗せたまま。
まるで自宅のソファにでも座っているかのようだった。
しばらくして、車内販売のワゴンが通ってきた。
販売員の女性が近づいた瞬間、
明らかに困った顔をした。
そりゃそうだ。
テーブルの上に足がある。
でも販売員はとても丁寧に言った。
「申し訳ありません、お足を下げていただけますか?」
すると男は、スマホから目も離さずに言った。
「ん?」
そして一言。
「これくらい別にいいでしょ」
車内の空気が一瞬で凍った。
販売員は一瞬言葉に詰まったが、
それでも丁寧に続けた。
「他のお客様もご利用されるテーブルですので…」
すると男はため息をつき、
ほんの少しだけ足を動かした。
数センチだけ。
まだテーブルの端に足が乗っている。
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