「あなたたち、早く離婚した方がいいよ。私と彼の方が本当の愛だから」
その一文を見た瞬間、私は手に持っていたマグカップを落としそうになった。
夜、夫がソファでスマホを見ながら、ずっとため息をついていた。
仕事で何かあったのかと思って、
「どうしたの?」
と聞いたら、夫はものすごく疲れた顔でスマホを差し出してきた。
「……これ、見て」
画面に並んでいたのは、知らない女からの長文メッセージ。
いや、正確には“知らない女”ではなかった。
夫の昔の知り合い。
一度だけ名前を聞いたことがある程度の人。
その人が、なぜか私に向けて、堂々と宣戦布告してきていた。
「彼、あなたと一緒にいるのストレスだと思うよ」
「鈍感な奥さんって困るよね」
「私と彼は相思相愛なの」
「だから、早く離婚してあげて」
読めば読むほど、怒りより先に笑いが込み上げた。
え、何これ。
昼ドラ?
それとも自作自演の恋愛小説?
しかも一番すごかったのは、
「奥さんだけが分かってない」
という一文。
いや、分かってないのはどっちだ。
私は深呼吸して、夫を見た。
「これ、どういうこと?」
夫は慌てるでもなく、隠すでもなく、すぐにLINEの画面を全部開いた。
「本当に迷惑してる。前から一方的に来てるだけ。俺は何度もやめてって言ってる」
そこから私は、トーク履歴を最初から最後まで見せてもらった。
結果。
女の完全な一人芝居だった。
夫の返信は、ほとんどない。
あっても、
「もう連絡しないで」
「妻に失礼なことを言わないで」
「そういうつもりは一切ない」
この三つくらい。
なのに相手は、まるで二人が愛し合っているかのように、自分の中だけで物語を進めていた。
「私たち、遠回りしちゃったね」
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