「レジは間違えません」
その一言を聞いた瞬間、私は買う気をなくした。
大型家具店で、寝具を買おうとしていた時のことだった。
売り場には赤い値札が出ていた。
60%引き。
税込4,796円。
私は「これは安い」と思って、商品をカートに入れた。
寝具はちょうど買い替えたかったし、在庫限りと書かれていたから、少し得した気分だった。
ところがレジに持っていくと、画面に表示された金額は9,592円。
ほぼ倍だった。
私は最初、単純なスキャンミスだと思った。
だから普通に聞いた。
「すみません、これ売り場では4,796円になっていました」
すると店員さんは、画面を見たまま言った。
「レジは間違えません」
その言い方が、引っかかった。
確認します、ではない。
少々お待ちください、でもない。
まるで、間違っているのは最初から私のほうだと決めつけているような口調だった。
私は一度、深呼吸した。
ここで感情的になったら、ただの面倒な客にされる。
だから静かに言った。
「では、一緒に売り場を確認していただけますか」
店員さんは少し面倒そうな顔をした。
でも、売り場担当者を呼び、私たちは商品棚へ戻った。
そこには、ちゃんと赤い値札が残っていた。
4,796円。
しかもその商品は、まさにその値札の前に置かれていた。
私は間違っていなかった。
正直、この時点で「申し訳ありません、表示を確認します」と言ってくれたら、それで終わる話だった。
でも担当者は、値札と商品を見比べたあと、こう言った。
「これは9,592円の商品ですね。4,796円の商品は別の在庫です」
私は思わず聞き返した。
「では、どうしてこの商品が4,796円の値札の前に置かれているんですか?」
担当者は少し黙った。
そして言った。
「たぶん、置き場所がずれたんだと思います」
たぶん?
売り場の管理がずれているなら、それは店側の問題ではないのか。
私はさらに聞いた。
「値札もそのままで、商品もここに置かれていて、客が4,796円だと思うのは自然ですよね?」
担当者の表情が、少し硬くなった。
「でもレジでは9,592円ですので」
またそれか。
レジが正しい。
システムが正しい。
だから客が見た表示は関係ない。
その空気に、私はだんだん冷静になっていった。
怒りが冷めると、逆に頭が働く。
私はスマホを取り出し、まず値札を撮った。
次に商品が置かれていた位置を撮った。
さらに、レジ画面に表示された9,592円の金額も撮らせてもらった。
店員さんが少し慌てた。
「撮影はちょっと……」
私は言った。
「価格が違う理由を確認するための記録です。顔は撮っていません」
そのあと、担当者は別店舗に4,796円の商品が一つあると言い出した。
そして、さらに信じられない一言を口にした。
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