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「730円だからって、私たちの命まで軽く見たんですか?」新生児を抱え、荷物を両手に持って乗った短距離タクシー。降車直後、無言の運転手が突然バックしてきて、私が赤ちゃんを抱き込んだ次の瞬間…
2026/07/02

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730円のタクシーで、私は赤ちゃんごと命を削られかけた

たった730円だった。

駅前から自宅まで、歩けば10分少しの距離。

でもその日の私には、その10分がどうしても無理だった。

胸には生まれて間もない赤ちゃん。

両手にはスーパーの重い袋。

寝不足で頭はぼんやりして、腰は立っているだけで痛かった。

私は駅前でタクシーを止めた。

行き先を告げると、運転手はミラー越しにちらっと私を見ただけで、返事をしなかった。

車内はずっと無言。

赤ちゃんが少し動くたびに、私は小さく揺らしてなだめていた。

到着すると、料金は730円。

ワンメーターだった。

私は支払いを済ませ、習慣で言った。

「ありがとうございました」

返事はなかった。

まあ、疲れている人なのかもしれない。

そう思って、私は赤ちゃんを胸に抱え直し、スーパーの袋を持ち替えて車を降りた。

歩道側へ一歩出た、その瞬間だった。

後ろでエンジン音が急に大きくなった。

次の瞬間、タクシーが勢いよくバックしてきた。

ゆっくりではない。

迷いなく、アクセルを踏んだような速度だった。

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私は反射的に体をひねり、赤ちゃんを内側に抱き込んだ。

手に持っていた袋が落ちた。

卵が割れる音がした。

牛乳が道路に広がった。

車体は、私の背中すれすれを通り抜けた。

あと少し遅れていたら。

赤ちゃんを外側に抱いていたら。

考えた瞬間、足が震えて動かなくなった。

その時、近くにいた男性が怒鳴った。

「おい!今の危ないだろ!」

別の女性も駆け寄ってきた。

「大丈夫ですか?赤ちゃんは?」

その声で、私はようやく息を吸えた。

タクシーは少し先で止まっていた。

運転手は窓を開けるでもなく、降りるでもなく、まるで面倒くさそうに前を見ていた。

男性が車の前に立ち、スマホでナンバーを撮った。

女性は私の肩を支えてくれた。

「今の、見てました。完全に危なかったです」

その一言で、私は我に返った。

泣いて終わりにしてはいけない。

怖かったで終わらせたら、次は別の誰かが同じ目に遭う。

私は震える手で領収書を取り出した。

会社名。

車両番号。

時刻。

料金、730円。

全部残っている。

家に戻って赤ちゃんを寝かせたあと、私はすぐタクシー会社に電話した。

声はまだ震えていた。

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でも、話す内容は一つずつ整理した。

赤ちゃんを抱いていたこと。

荷物を持っていたこと。

料金が730円だったこと。

降車直後に急加速でバックされたこと。

目撃者がいて、車両番号も撮影済みであること。

電話口の担当者は、最初は事務的だった。

でも「ドライブレコーダーを確認してください」と言った瞬間、声のトーンが変わった。

後日、会社から正式に連絡があった。

車内外の記録と聞き取りを確認した結果、運転手の安全確認不足と危険な操作が認められたという。

運転手は乗務停止処分。

会社からは正式な謝罪。

そして本人からも謝罪の電話が来た。

その電話で、運転手は言った。

「その日は気分が悪くて、少しイライラしていました」

私は一瞬、言葉を失った。

そして、静かに返した。

「あなたの気分が悪いことと、私と子どもの命を危険にさらしていいことは、何の関係もありません」

電話の向こうは黙った。

私は続けた。

「730円だからですか?」

「短距離だから、腹が立ったんですか?」

「でも私は、ちゃんとお金を払っています」

「あなたはその数分間、私と子どもの安全を預かっていたんです」

運転手は何も言えなかった。

その沈黙を聞いて、私は初めて少しだけ息ができた。

私は、何も悪いことをしていない。

歩けないほど疲れていたから、タクシーに乗っただけ。

赤ちゃんを抱いて、安全に帰りたかっただけ。

たったそれだけのことに、どうして命を削られなきゃいけないのか。

あの日、通行人がいなかったら。

誰も見ていなかったら。

私が領収書を捨てていたら。

会社に連絡する気力がなかったら。

きっと「怖かった」で終わっていた。

でも今回は違った。

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私は逃がさなかった。

730円は安いかもしれない。

でも、私の命は安くない。

赤ちゃんの命は、もっと安くない。

育児でボロボロになっている人ほど、遠慮してしまう。

短距離だから申し訳ない。

赤ちゃん連れだから迷惑かもしれない。

そんなふうに、つい自分を小さくしてしまう。

でも違う。

お金を払って乗る以上、私たちはちゃんと客だ。

安全に降ろされる権利がある。

あの日、私が守ったのは、割れた卵でも、こぼれた牛乳でもなかった。

胸の中の小さな命と、自分の尊厳だった。

730円で軽く見られた私が、最後に会社を動かした。

もう二度と、短距離だからと謝らない。

命に、ワンメーターなんてない。

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