「自由席って、自由に三席使って寝ていい席じゃないですよね?」
東北新幹線に乗った瞬間、私は思わず足を止めました。
指定席が満席で取れず、その日は仕方なく自由席へ向かいました。
早めに並んだから、運がよければ座れるかもしれない。
そんな淡い期待を持って車内に入ったのですが、目に飛び込んできた光景に言葉を失いました。
三列シートを、一人の女性が完全にベッド化していたのです。
横向きに寝転び、頭の下には大きなバッグ。
残りの席には上着と荷物。
三人分の座席が、堂々と一人分の寝床になっていました。
東京を出たばかりの時は、まだ車内にも少し余裕がありました。
周りの人も「うわ……」という顔はしていましたが、誰も何も言いません。
私も最初は、体調が悪いのかもしれないと思いました。
本当に具合が悪いなら、責める話ではありません。
でも、上野に着くと状況は変わりました。
乗客が一気に増え、通路に立つ人が出始めました。
大きな荷物を抱えた人。
小さな子どもを連れた人。
年配の方。
みんな座席を探しているのに、目の前には三席分の“使えない席”がある。
空いているように見えるのに、誰も座れない。
その異様な空気が、車内にじわじわ広がっていきました。
さらに大宮に着くと、通路はかなり混み合ってきました。
立っている人同士の肩が触れそうなほどで、少し揺れるだけでも危ない状態です。
それでも、その女性は動きません。
寝返りを打つこともなく、まるでここは自分の部屋だと言わんばかりに横になったまま。
私はしばらく迷いました。
声をかけて揉めたら嫌だ。
周りから「余計なことをする人」と思われたらどうしよう。
でも、目の前で年配の方が吊り革につかまりながら揺れているのを見て、さすがに黙っていられなくなりました。
私はできるだけ角が立たないように、静かに声をかけました。
「すみません、具合が悪いんですか?大丈夫ですか?」
すると女性は、片目だけをゆっくり開けました。
そして、私をじろっと睨みました。
何か短く言いましたが、聞き取れませんでした。
次の瞬間、また目を閉じました。
謝罪もなし。
説明もなし。
荷物をどかす気配もなし。
まるで「何を言っているの?」とでも言いたげな態度でした。
その瞬間、周りの空気がピリッと固まりました。
みんな見ています。
でも、誰も言いません。
小さな声で「さすがにね……」とつぶやく人もいました。
でも、その声は本人には届きません。
私はそこで、これ以上本人と話しても無理だと判断しました。
感情的に言い合いになれば、こちらが悪者にされるかもしれません。
だから私は、少し大きめの声で言いました。
「通路も危ないので、乗務員さんを呼んできますね」
すると近くにいた男性が、小さくうなずきました。
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