「警告文を一枚貼っても見ないなら、見えなくなるまで貼ってやろうと思ったんです」
私は牛丼店で働いています。
うちの店には、お客様用の駐車場があります。
数は多くありません。
だから昼どきや夕方になると、一台分の空きがあるかないかで、お客様の入り方がまるで変わります。
それなのに、ある日から一台の車が毎朝のように停まるようになりました。
朝九時ごろに来て、夜八時半ごろまでずっとそのまま。
店に入ってくるわけでもない。
牛丼を食べるわけでもない。
ただ、いちばん停めやすい場所を、まるで自分の月極駐車場みたいに占領していました。
最初は私も、たまたまだと思っていました。
近くで用事があって、少しだけ停めているのかもしれない。
そう思って、やんわり注意の紙を貼りました。
「こちらは店舗利用のお客様専用駐車場です」
でも翌日も、その車は同じ場所に停まっていました。
次の日も。
その次の日も。
こちらが貼った紙は、毎回きれいに剥がされていました。
つまり、見ていないわけではありません。
見たうえで、無視していたんです。
昼どき、お客様が車で入ってきて、満車だと思ってそのまま出ていく姿を何度も見ました。
中には小さな子どもを連れた家族もいました。
高齢のお客様が、駐車場をぐるっと回って諦めて帰ってしまったこともあります。
私はそのたびに、胸の奥がじわじわ熱くなりました。
なんで本当に店を利用する人が我慢して、勝手に停めている人が得をするのか。
店長にも相談しました。
警察にも連絡して、車の持ち主に電話をしてもらいました。
でも相手は出ません。
こちらからのお願いも、警察からの連絡も、全部無視。
それでいて、夕方になると何食わぬ顔で戻ってきて、車に乗って帰っていく。
ある日、ようやく車主と鉢合わせました。
私はできるだけ冷静に言いました。
「すみません、ここはお客様用の駐車場なので、長時間の駐車はご遠慮ください」
すると相手は、笑いながら言いました。
「別に入口ふさいでないでしょ?停める場所くらいあるじゃん」
その瞬間、私の中で何かが切れました。
でも、そこで怒鳴ったら負けです。
相手はきっと「店員に怒鳴られた」と被害者の顔をする。
だから私は、その場では何も言いませんでした。
その代わり、店長に確認を取りました。
車を傷つけないこと。
すぐ剥がせる紙を使うこと。
今までの注意記録と、長時間駐車の記録を残しておくこと。
全部確認したうえで、その夜、私は警告文を印刷しました。
一枚では足りない。
十枚でも足りない。
だってこの人は、一枚の注意を平気で無視する人だから。
私は、車の窓やボディに傷がつかないよう注意しながら、警告用紙を一枚ずつ貼っていきました。
フロントガラス。
サイド。
ボンネット。
ドア。
見える場所、全部。
気づいた時には、車全体が警告文で覆われていました。
まるで車そのものが「私は無断駐車しました」と叫んでいるみたいでした。
正直、少しだけ手が震えていました。
やりすぎかな、とも思いました。
でもすぐに、お昼に帰ってしまったお客様の顔を思い出しました。
注意されても無視。
電話も無視。
紙も無視。
それなら、無視できない形にするしかない。
数時間後、ついに車主が戻ってきました。
彼は駐車場に入ってきた瞬間、ぴたりと足を止めました。
そして、自分の車を見て、固まりました。
遠くから見ても分かるくらい、顔色が変わっていました。
近づいて、警告文を一枚めくる。
また一枚めくる。
そのたびに周りの視線が集まっていきました。
店に来た常連さんが、窓の外を見て言いました。
「ああ、あの車か。いつも停まってるやつだよね」
別のお客様も言いました。
「この前、あれのせいで停められなかったんだよ」
車主の顔が、赤くなって、次に白くなりました。
さっきまでの余裕はどこにもありません。
紙を剥がす手はどんどん雑になっていきましたが、誰も同情しませんでした。
だって、みんな知っていたからです。
この車が、ずっと迷惑をかけていたことを。
車主は店内に入ってくるかと思いました。
文句を言いに来るかと思いました。
でも、来ませんでした。
ただ黙って紙を剥がし続け、最後はうつむいたまま車に乗り込みました。
そして、そのまま逃げるように出ていきました。
次の日。
私は少し緊張しながら出勤しました。
また停まっていたらどうしよう。
そう思いながら駐車場を見ました。
でも、あの車はありませんでした。
その次の日も。
一週間後も。
二度と現れませんでした。
お客様の車がすんなり停まり、普通に店に入ってくる。
ただそれだけの光景なのに、私は妙にうれしくなりました。
私は車を傷つけたわけではありません。
怒鳴ったわけでもありません。
ただ、相手がずっと無視してきた警告を、無視できない量にしただけです。
有些人不是看不见规矩。
只是觉得别人不敢认真追究。
一枚の紙で伝わらないなら、何枚でも伝えればいい。
あの日、私はそう思いました。