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「たった600mで、その態度ですか?」杖をつく母を駅から実家まで乗せただけなのに、行き先を告げた瞬間から無言の運転手。到着しても「500円」だけ。さらに小さく吐いた一言で母の肩が震え、私はその場でスマホの録画を始めた…
2026/06/25

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「たった600メートル乗っただけで、ここまで“客じゃない扱い”されるんだ」

駅から実家までは、距離にして600メートルほどでした。

元気な人なら、歩ける距離かもしれません。

でも、その日一緒にいた母は、杖をついていました。

寒さで足元も悪く、段差の多い道を歩かせるのはどう考えても無理でした。

だから私は、駅前からタクシーに乗りました。

ただ、それだけのことです。

ドアが閉まり、私は行き先を告げました。

「〇〇町の〇〇までお願いします」

返事はありませんでした。

「はい」も「分かりました」もなし。

バックミラー越しに見えた運転手の顔は、明らかに不機嫌でした。

短距離だと分かった瞬間、空気が変わったのが分かりました。

母が小さな声で言いました。

「すみません、この先を左にお願いします」

それでも運転手は無言。

もう一度、母が遠慮がちに言っても、返事はありません。

車内に重たい沈黙が落ちました。

母は杖を握りしめたまま、少し肩をすぼめていました。

私はその姿を見ながら、胸の奥がじわじわ冷えていくのを感じました。

数分後、実家の近くに着きました。

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ブレーキがかかり、車が止まりました。

運転手は振り返りもせず、たった一言だけ言いました。

「500円」

それだけでした。

「着きました」もなし。

「足元に気をつけてください」もなし。

年寄りの母が降りるのに、気遣う様子すらありませんでした。

私はまだ黙っていました。

短距離で機嫌が悪いだけなら、もうさっさと降りようと思っていたからです。

でもその時、運転手が小さく鼻で笑いました。

そして、聞こえるか聞こえないかの声で言ったのです。

「……ほんと、こういう客な」

母の肩が、びくっと震えました。

その瞬間、私の中で何かが完全に切れました。

私は低い声で言いました。

「今、何て言いました?」

運転手は面倒くさそうに振り返りました。

「別に」

その顔を見て、私はもう話し合う必要はないと思いました。

私はスマホを取り出し、録画を始めました。

その瞬間、運転手の顔色が変わりました。

「撮るなよ」

私は冷静に返しました。

「撮られたくないことをしているから困るんですよね」

運転手は舌打ちしました。

「文句あるなら、ここで降りればいいだろ」

そこは交差点の手前でした。

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後ろには車もいました。

母の足では、そんな場所で安全に降りられるわけがありません。

私はスマホを向けたまま言いました。

「高齢の乗客を危ない場所で降ろそうとしたことも、全部記録します」

運転手の表情が固まりました。

さっきまでの強気な態度が、一気に消えていきました。

「たかがワンメーターで偉そうに」

その一言で、私は確信しました。

やっぱり短距離だからだったのだと。

たった500円の客だから、雑に扱っていいと思ったのだと。

私は母を見ました。

母は下を向いたまま、何も言いませんでした。

その姿を見たら、怒りより悔しさが込み上げてきました。

私は運転手に言いました。

「母を怖がらせたこと、会社に正式に伝えます」

運転手は黙りました。

そして何も言わず、車を実家の前まで動かしました。

停車してから、ようやく小さな声で言いました。

「……すみません」

でも、それが反省から出た言葉ではないことくらい分かりました。

録画されたから。

会社に言われると思ったから。

面倒になるのが嫌だったから。

ただ、それだけの謝罪でした。

私は料金を払い、領収書を受け取りました。

車番も、時間も、発言も、全部残しました。

母を支えて家に入ると、母がぽつりと言いました。

「私ね、慣れてるの」

私は思わず母を見ました。

「年を取るとね、話しかけても返事してもらえないこと、増えるのよ」

その言葉が、一番つらかったです。

慣れていいわけがありません。

短い距離を乗ることは、迷惑ではありません。

足の悪い人がタクシーを使うことは、わがままではありません。

500円でも、ちゃんと料金を払っている客です。

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その夜、私はタクシー会社に正式に連絡しました。

領収書の写真。

車番。

乗車時間。

そして録画。

全部まとめて提出しました。

数日後、会社から連絡がありました。

「当該乗務員については、現在出勤停止のうえ事実確認を行っています」

さらに、運転手本人は謝罪を希望していると言われました。

私は断りました。

私が欲しかったのは、形だけの謝罪ではありません。

同じことを、他の高齢者や体の不自由な人に二度としないことでした。

会社の担当者は最後に言いました。

「記録を確認したところ、本人も発言を認めています」

それを聞いた時、私は静かに思いました。

証拠は怒鳴りません。

言い返しもしません。

でも、一番逃げ道をなくします。

母は後日、少しだけ笑って言いました。

「あの人、もう誰にもあんな言い方できないね」

私はうなずきました。

たった600メートル。

たった500円。

でも、人を雑に扱っていい理由にはなりません。

短距離だからと見下したその態度は、しっかり記録に残りました。

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