「“クソばばぁ”って言われました。SAで。」
高速道路のサービスエリア。
駐車禁止の場所に停められた一台の車のせいで、私は出られなくなっていました。
仕方なく窓を少し開けて、できるだけ穏やかに言ったんです。
「ここ、駐車禁止ですよ。出られないので少しだけ動かしてもらえますか?」
その瞬間でした。
「知ってるよ!うるせーんだよ!」
男が勢いよくドアを開け、私の車に近づいてきた。
窓をドンドン叩きながら、スマホを向ける。
「だから女ドライバーはダメなんだよ!」
「女は黙ってろ!」
「運転も下手なくせに偉そうに!」
ルールの話はどこかへ消え、
ただ“女だから”という理由だけで怒鳴られていました。
私は言い返しませんでした。
目も逸らさず、ただ静かに聞いていた。
正直、腹は立っていました。
でも彼が選んだのは、“一人でいる女”という相手。
そのとき、私は一言だけ言いました。
「強い人にも、同じこと言えますか?」
一瞬、男の顔が揺れた。
けれどすぐにまた声を荒げる。
「何言ってんだよ!」
その直後。
背後から足音。
私の夫が戻ってきました。
状況を一目見て、何も言わずに近づく。
男が振り向く。
夫は、低く一言。
「今の、俺に言ってみて。」
それだけ。
怒鳴らない。
詰め寄らない。
ただ、まっすぐ見る。
空気が変わりました。
さっきまで窓を叩いていた男が、急に距離を取る。
夫が、もう一度だけ。
「……何て?」
声は小さいのに、逃げ場がない。
男の視線が泳ぐ。
肩が落ちる。
「いや…別に…」
さっきの大声はどこへ。
夫はそれ以上何も言いませんでした。
沈黙。
数秒。
男のほうが耐えられなくなった。
「すみません…言い過ぎました…」
声量は、ほぼゼロ。
夫は短く言いました。
「本人に。」
男が、ゆっくり私を見る。
ほんの数分前まで見下していた目で。
「……すみませんでした。」
あれだけ性別で攻撃していた人が、
急に小さくなる。
それ以上は続かず、
男は車に戻り、慌てるように発進していきました。
静かなSAに、エンジン音だけが残る。
私は深く息を吐きました。
強いわけじゃない。
強い相手を避けているだけ。
弱いと判断した相手にだけ、
大きな声を出す。
“女だから”と決めつけて怒鳴る人の正体は、
案外こんなものです。
夫は何事もなかったように助手席に乗り込みました。
「大丈夫?」
それだけ。
私はうなずきながら思いました。
女だからって、なめるな。
本当に強い人は、相手を選ばない。
本当に弱い人ほど、相手を選ぶ。
あの男の急な変わり身。
それが、すべての答えでした。
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