祭りの日に、家の敷地に車を停められた。
しかも当然の顔で。
ここはコインパーキングじゃない。
私の敷地だ。
人が増える日ほど出てくる。
「ちょっとだけ」
「すぐ戻るから」
その“ちょっと”を、私はずっと飲み込んできた。
でも今回は違った。
車は敷地の真ん中。
通路も塞ぐ。動線も邪魔。
戻ってきて当然の顔をする姿が、簡単に想像できた。
その瞬間、決めた。
もう我慢しない。
怒鳴らない。
通報もしない。
ただ、元の状態に戻すだけ。
自分の車を動かした。
左に一台。
右に一台。
タイヤを内側に切る。
隙間、ほぼゼロ。
壊していない。
触れてもいない。
ただ、私有地は私有地だと示しただけ。
夜、電話が鳴った。
画面に表示された番号で分かった。持ち主だ。
出ると、いきなり強い口調。
「ちょっと停めただけですよ?」
「すぐ戻るつもりだったんで」
「出してくださいよ、困るんですけど」
私は声を荒げなかった。
「ここ、私有地ですよ」
それだけ。
相手はまだ食い下がる。
「こんなのやりすぎでしょ」
「普通動かしますよね?」
でも現実は変わらない。
車は出られない。
状況は動かない。
沈黙が続いたあと、声のトーンが下がる。
「……すみませんでした」
さっきの勢いは消えていた。
私はうなずいただけ。
それ以上の言葉はいらない。
私は仕返しをしたわけじゃない。
我慢をやめただけ。
ルールを守った側が遠慮する空気は、ここにはない。
出られない?
それは私のせいじゃない。
停めた瞬間に、自分で選んだ結果だ。
その日、私は何かを取り戻した。
怒鳴らず、揉めず、
ただ線を引いた。
それだけで、胸の奥がスッと軽くなった。
私は間違っていない。
誰かを困らせたんじゃない。
自分の場所を守っただけ。
また同じことがあったら?
同じようにする。
迷いなく。
私有地は“お願い”で守るものじゃない。
守る側が、守ると決めるだけだ。
その日、私は
我慢する側から、線を引く側に戻った。
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