元妻と離婚して、もう18年になる。
あの時は、彼女のほうがどうしても離れたいと言い出して、
家もいらない、金もいらない、
ただ一言、「娘はあなたに任せる。私はもう無理」と言って出て行った。
それから娘は、ずっと俺と二人暮らしだ。
今、娘は社会人になった。
地方都市の会社で働いて、会社の寮に住んでいる。
週末になると、たまに帰ってくる。
玄関に入って、カバンを置いて、
そのままソファにドサッと座って言う。
「お父さん、スペアリブ買ってきたよ。」
その一言で分かる。
ああ、この子は俺の作る骨付きスープが飲みたいんだなって。
顔立ちは母親にそっくり。
でも性格は、完全に俺。
頑固で、地道で、遠回りしない。
その姿を見るたび、胸の奥が少し柔らかくなる。
正直、離婚した直後の数年が一番きつかった。
仕事しながら、子育て一人。
朝5時に起きて、ゆで卵作って、麺をゆでて、
「ちゃんと食べなさい」って言って学校に送り出す。
夜は夜で、疲れた体で宿題を見る。
娘もまた、妙に頑固で。
問題が分からないと、机の前で30分泣く。
答えを教えても嫌がって、
「自分で考えないと寝ない」って。
俺の子だなって、苦笑いした。
ある冬の夜、40度近い熱を出した。
コートもまともに着せず、抱きかかえて病院へ走った。
その途中、娘がうとうとしながら俺の服を掴んで言った。
「お父さん、慌てないで。大丈夫だから。」
あの時、心の中で思った。
この子だけは、絶対にちゃんと育てる。
それだけだった。
今はもう、自分で稼いでる。
職場でも評価されてるらしい。
帰ってくるたびに、肉だけじゃなく、
シャツとか、靴とか、いろいろ買ってくる。
「無駄遣いするな」って言うと、
決まってこう返す。
「私、ちゃんとお金あるよ。お父さんが楽ならいいの。」
週末の朝、俺は早く起きて、
コンビニで肉まんと豆乳を買う。
帰ると、娘はまだ寝ている。
ソファに座って、ただ寝顔を見る。
髪が顔にかかって、
無防備な寝方は、子供の頃と変わらない。
ただ、顔だけが大人になった。
スペアリブを煮る時、
俺はキッチンの入口の椅子に座って見てる。
生姜を入れて、ネギを入れて、
やり方は、昔俺が教えた通り。
「お父さん、塩どれくらい?」って聞かれる。
「少なめでいい。お前、薄味だろ。」
出来上がると、必ず先に俺の分をよそう。
「お父さん、先に飲んで。今日どう?」
スープを飲みながら、思い出す。
初めて自分で作った時、塩入れすぎて、
恥ずかしそうに
「次は絶対うまくやるから」って言ってたこと。
今の娘、何も問題ない。
ただ一つだけ、心配なのは、働きすぎ。
夜遅くなるたび、
ちゃんと食べてるのか、
胃を壊してないか、気になって仕方ない。
元妻は、あの時「自由になりたい」と言って出て行った。
でも、夜中に病院に走ったのも、
宿題を一緒にやったのも、
大人になるまでそばにいたのも、全部俺だ。
結局、人生で一番深く残るのは、
夫婦じゃなくて、親子なんだと思う。
子供が何歳になっても、
親の心配だけは、
一生、終わらないもんなんだな。