「新入社員には車をプレゼントします」
この一言を見た瞬間、私は一回、画面を止めた。
え、車?
交通費じゃなくて?
入社祝いのボールペンでもなくて?
会社のロゴ入りノートでもなくて?
車?
しかも映像の下には、はっきり出ている。
大卒求人倍率、1991年3月卒。
2.86倍。
つまり、学生1人に対して、企業側の求人が約3社分あったということだ。
今の感覚で見ると、ほとんど別世界。
会社が学生をふるいにかける時代ではなく、会社が学生に頭を下げて来てもらう時代だった。
だからこそ、あんな言葉が普通に出てくる。
「新入社員には車をプレゼントする」
今ならまず疑う。
何か裏があるんじゃないか。
あとから給料から引かれるんじゃないか。
ものすごいノルマがあるんじゃないか。
そう考えてしまう。
でも、当時はそれくらいしないと、人が集まらなかった会社もあったのだと思う。
食事会。
社員旅行。
豪華な内定者イベント。
入社前から手厚く囲い込む。
学生側も、今よりずっと強い立場だった。
断る側だった。
選ぶ側だった。
もちろん、その時代に生きていた人たち全員が楽をしていたとは言わない。
仕事は仕事で大変だったはずだ。
残業も多かっただろうし、理不尽なこともあっただろう。
でも、入口の条件が違いすぎる。
ここが大きい。
スタート地点から、今の若者とはまるで違う。
今の若者は、就活の時点で何十社も落ちる。
エントリーシートを書いて、動画面接を撮って、適性検査を受けて、何度も面接をして、それでも落ちる。
やっと入社しても、給料は大きく伸びない。
家賃は高い。
税金も社会保険料も重い。
物価は上がる。
スマホ代もかかる。
奨学金の返済を抱えている人もいる。
それでいて、職場ではこう言われる。
「最近の若者はすぐ辞める」
「昔はもっと我慢した」
「根性が足りない」
私はこの言葉を聞くたびに、いつも引っかかっていた。
でも、この映像を見て、引っかかりの正体が分かった気がした。
あなたたちの“昔”と、今の若者の“今”は、そもそも同じ土俵ではない。
1991年に新卒だった人たちは、現在だいたい50代後半。
会社では管理職になっている人も多い。
面接する側。
評価する側。
若手を指導する側。
会社の空気を作る側。
その世代が、自分たちの新卒時代の感覚のまま、今の若者を見ていないだろうか。
「俺たちの頃はもっと働いた」
「私たちの頃は文句を言わなかった」
それは本当に同じ条件での比較なのか。
そこを一度、考えてほしい。
だって、新人に車を出すほど企業が必死だった時代と、若者が何十社も落とされる時代を、同じ根性論で語るのは無理がある。
入口で歓迎された人と、入口で消耗させられた人。
初任給で未来を想像できた人と、初任給を見て生活を計算し直す人。
会社に育ててもらえると思えた人と、最初から即戦力を求められる人。
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