「すみません、その手、大丈夫ですか?」
カウンターで寿司を待っていたら、
目の前の店員が何度も髪を触っていた。
食べ物を扱う人なのに、
お客さんの前でそれをするのか。
小声で一度だけ伝えた。
すると店員は、
明らかに面倒くさそうな顔をした。
でも本当に無理だったのは、そのあと。
次に運ばれてきた皿を見た瞬間、
私は箸を置いた。
「すみません、その手、大丈夫ですか?」
自分でも、かなり迷ってから言った。
言いたくなかった。
せっかく入った寿司屋で、
空気を悪くしたいわけじゃない。
ただ、目の前だった。
カウンター越しに、店員の手元が全部見える。
ネタを並べて、
シャリを取って、
皿を出して。
その流れの途中で、
その人は何度も髪に触っていた。
前髪を直すような仕草。
耳の横を触るような仕草。
一回なら、見間違いかと思った。
でも二回目を見た時点で、
正直、食べる気が少し落ちた。
食べ物を扱う人が、
お客さんの目の前で髪を触る。
しかもそのあと、
そのまま手元に戻る。
これ、私が細かいのかな。
そう思って数分黙っていた。
でも、次の寿司を握る直前にまた触った。
さすがに無理だった。
だから、できるだけ小さな声で言った。
「すみません、その手、大丈夫ですか?」
責める言い方にはしなかった。
周りのお客さんに聞こえないようにした。
恥をかかせたいわけじゃない。
ただ、手を洗うなり、
気づいてくれたらそれでよかった。
でも返ってきたのは、
謝罪でも説明でもなかった。
店員は一瞬こっちを見て、
ふっと目をそらした。
そして、
「はい」
とだけ言った。
その「はい」が、すごく嫌だった。
分かりました、の「はい」じゃない。
うるさいな、の「はい」。
顔に出ていた。
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