「このカード、あなたがいつも使ってる店じゃないよね?」
夕飯の片付けをしていた時だった。
夫の財布から、
黒いカードが一瞬見えた。
海辺の高級ホテルのVIPカード。
私はなるべく自然な声で聞いた。
夫の手が、
ほんの少し止まる。
「……ああ、取引先にもらった。」
「へえ。」
「接待用。」
私はカード表面の金色のロゴを見ながら、
心の中で笑った。
――接待用で、三十万円クラスのVIP会員権?
しかもそのホテル、
私たちが結婚写真を撮った場所だった。
海沿いのチャペル。
プロポーズされたレストラン。
「子供が大きくなったらまた来ような。」
そう笑っていた場所。
私は何も言わなかった。
「そうなんだ。」
ただそれだけ返した。
夫は安心したみたいに、
すぐ財布を閉じた。
でもその瞬間、
私は確信した。
この人、
もうかなり深い。
最近の夫は分かりやすかった。
スマホは必ず伏せる。
風呂にも持っていく。
家ではほとんど笑わない。
でもLINEの通知が来た瞬間だけ、
顔が柔らかくなる。
「また出張?」
「仕事。」
「最近多いね。」
「しょうがないだろ。」
会話はいつもそこで終わった。
私は騒がなかった。
代わりに、
静かに調べ始めた。
昔からの友人に頼んで、
ETC履歴やホテル利用を確認してもらった。
数日後、
友人から電話が来た。
『ねえ……覚悟して聞いて。』
「うん。」
『旦那さん、同じホテルばっか行ってる。海沿いの。』
送られてきたホテル名を見た瞬間、
呼吸が止まった。
そこ、
私たちの思い出の場所だった。
私はしばらく、
スマホを持ったまま動けなかった。
なんでそこなの。
もっと他にもホテルあるのに。
なんでわざわざ、
私たちの場所を使うの。
その答えは、
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