「来ないよ。高いから(1枚3,300円でしょ?)」
その一文が、玄関のドアの隙間から差し込んだ冷たい風みたいに、胸の奥に入り込んだ。
私はその日、少しだけ浮かれていた。
子どもの初めての発表会。二枚のチケットの写真を添えて、「よかったら来てください」と丁寧にメッセージを送った。座席番号も書いた。二枚、とちゃんと書いた。
既に支払いは済ませていた。
パート代から、6,000円。
決して大きな額じゃない。でも、私にとっては何度も電卓を叩いて、数日分の昼食代を削って出した6,000円だった。
だからこそ、「楽しみにしています」と返ってくると思っていた。
返ってきたのは、
「1枚3,300円なら、ちょっと高いね。今回はやめておく。」
私はしばらく画面を見つめたまま動けなかった。
誤解だと分かっている。二枚で約6,000円だ。1枚3,300円だと思い込んでいるらしい。でも、その前に——
“高いから行かない”。
その言葉がすべてだった。
私は無意識に義両親のSNSを開いた。
数週間前に投稿されていた写真。
真新しい玄関。大きな窓。広いリビング。
現金で8千万ほどの家を建てた、と夫から聞いていた。
8千万。
その数字と、6,000円が頭の中で並んだ。
自分たちのための8千万はある。
孫の舞台を見るための6,000円は、ない。
喉の奥がひりついた。
夫に見せると、彼は困ったように眉を寄せた。
「悪気はないよ。誤解してるだけだと思う。説明すれば——」
説明?
私は思わず声を荒げた。
「問題は金額じゃないでしょ。高いと思ったら来ない、その価値なんだよ。」
自分でも驚くほど、声が震えていた。
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