「え、ここで肉焼いてるの?」
桜を見に公園へ行っただけなのに、思わず足が止まった。
レジャーシートを広げて、食べ物を並べて、そこまでは普通の花見だった。
でも、その真ん中にあったのは弁当じゃない。
火だった。
しかも、そこははっきり火気禁止の公園。
看板にも書いてある。
日本語が読めないとしても、火のマークにバツがついていたら、普通は分かると思う。
それなのに、外国語で楽しそうに話しながら、肉を焼いているグループがいた。
煙はふわっと流れてくる。
小さい子どもも近くを歩いている。
風もある。
芝生もある。
見ているこっちがヒヤヒヤした。
「これ、大丈夫なの?」
近くにいた女性も同じように眉をひそめていた。
最初は誰も強く言えなかった。
楽しい花見の空気を壊したくない。
変なトラブルにも巻き込まれたくない。
そう思っていた人は多かったと思う。
でも、だからといって見過ごしていい話ではない。
公園は誰か一部の人の庭じゃない。
子ども連れもいる。
高齢の方もいる。
犬の散歩をしている人もいる。
みんなが安心して使う場所だからこそ、最低限のルールがある。
「ここ、火を使っちゃダメなんですよ」
近くの男性が、少し離れた場所から声をかけた。
すると、相手は最初、笑ってごまかすような反応をした。
分かっていないのか。
分かっていて流しているのか。
どちらにしても、火は消えない。
肉はまだ焼かれている。
煙も出ている。
その瞬間、周囲の空気が少し変わった。
さっきまで桜を撮っていた人たちが、スマホを下ろした。
子どもを連れていた母親が、少し距離を取った。
「これ、通報した方がいいんじゃない?」
誰かが小さく言った。
私は正直、迷った。
大げさかなとも思った。
でも、火気禁止の場所で火を使っている時点で、もう大げさではない。
何か起きてからでは遅い。
結局、近くの人が管理側に連絡したらしく、しばらくして警察官が来た。
制服姿の警察官が見えた瞬間、場の空気が一気に張りつめた。
楽しい花見の公園に、警察官。
本来なら必要のない光景だ。
警察官は落ち着いた口調で説明していた。
ここでは火を使えないこと。
すぐにやめる必要があること。
周囲に迷惑がかかっていること。
すると、さっきまで楽しそうにしていたグループの表情が変わった。
ようやく事の重さに気づいたようだった。
火は消された。
道具も片付け始めた。
食べ残しやゴミも袋に入れさせられていた。
それを見て、私は少しだけホッとした。
でも同時に、なんとも言えない疲れもあった。
なぜ、ここまでしないと分からないのか。
なぜ、最初から看板を見て止められないのか。
日本に来るなと言いたいわけじゃない。
観光に来るのも、働きに来るのも、生活するのも、それ自体を否定したいわけではない。
でも、ここで暮らすなら。
ここで遊ぶなら。
ここで公共の場所を使うなら。
その場所のルールは守ってほしい。
これは日本人でも外国人でも同じ。
ただ、言葉が通じないから仕方ない、文化が違うから仕方ない、では済まないことがある。
火を使ってはいけない場所で火を使わない。
ゴミを持ち帰る。
周りに迷惑をかけない。
そんなことは、特別に難しい話ではない。
公園で必要なのは、国籍よりも常識だと思う。
警察官がその場を離れたあと、周囲には少しずつ普通の空気が戻ってきた。
子どもたちはまた走り出した。
桜を撮る人も戻ってきた。
レジャーシートの上でお弁当を食べていた家族も、ようやく笑顔になっていた。
そして、片付け終えたグループは、静かにその場を離れていった。
誰かが大声で責めたわけじゃない。
誰かが騒ぎ立てたわけでもない。
ただ、ルール違反が止められただけ。
それだけなのに、公園全体が少し軽くなった気がした。
私はその光景を見ながら思った。
日本の公園は、誰かが好き勝手する場所じゃない。
みんなが気持ちよく過ごすために、みんなが少しずつ我慢して、少しずつ気をつけている場所だ。
桜の下で楽しむのは自由。
でも、自由と迷惑は違う。
楽しむ権利があるなら、守る責任もある。
それができない人にまで、黙って場所を差し出す必要はない。
今回、警察官が来て、きちんと止めてくれて本当によかった。
注意してくれた人も、連絡してくれた人も、正しかったと思う。
公園に残ったのは、煙ではなく、ちゃんと戻ってきた穏やかな花見の空気だった。
ルールを守る人が損をする場所にしてはいけない。
そう強く感じた一日だった。
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