車に戻ってから、少しだけ手が震えていた。
さっきまで普通に走っていたのに、急にハンドルが取られる感覚になって、慌てて路肩に止めたあの瞬間。
あれだけでも十分びっくりだったのに——
その直後に、あの人が来た。
最初は、本当に助かったと思った。
山道だし、人通りも少ないし、どうしようか迷っていたところだったから。
でも、今思い返すとおかしいことばかりだった。
まず、来るのが早すぎる。
まだ車を止めて数十秒くらいしか経っていないのに、すぐ後ろから声をかけてきた。
しかも、状況をちゃんと見てもいないのに、
「これはもう交換ですね」
って、ほぼ断定。
普通、もう少し確認しない?
さらに気になったのが、金額の話。
「だいたいこのくらいですね」みたいな言い方で、はっきりした金額を言わない。
質問しても、具体的な数字は濁す。
そのくせ、「早くしないと危ないですよ」って、やたら急かしてくる。
そのあたりで、完全に違和感が強くなった。
冷静に考えてみたら、
なんでこんなタイミングで人が来るのかも分からないし、
なんで最初から交換前提なのかも分からない。
そこで一度深呼吸して、
「やっぱりJAF呼びます」って伝えた。
その瞬間だった。
さっきまでの柔らかい口調が、すっと消えた。
「じゃあいいです」
それだけ言って、さっさと離れていった。
あまりにも切り替えが早くて、逆に怖かった。
結局、そのあとJAFに来てもらって確認してもらったら、
タイヤは普通に修理で対応できるレベルだった。
交換なんて必要なかった。
その時に初めて、はっきり思った。
もしあのまま任せてたら、
必要ない交換をさせられていたかもしれないし、
いくら請求されていたかも分からない。
それより何より怖かったのは、
「困っているタイミングを狙われていたかもしれない」ということ。
山道で人が少ない場所、
すぐに判断しないといけない状況、
誰かに頼りたくなる瞬間。
そういう時ほど、冷静さを失いやすい。
だからこそ、
“ちょうどよく現れる人”ほど、一度疑った方がいいんだと思った。
助けてくれる人が全部悪いわけじゃない。
でも、
あの時の違和感は、無視しなくて正解だった。
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